実際、Web3という概念を説明する際に、いわゆるGAFAが“悪者”として紹介されるケースは、少なからず見受けられるのだが、いくら何でもTCP/IPやSMTP、HTTPなどのプロトコル(コンピューターなどの機器同士で通信を行うための規格)を“Web2の時代にGAFAが独占している”と書くのはデタラメ以外の何物でもない。
仮にGAFAが、これらのプロトコルを独占していたとすれば、この世のメール全てがGAFAの管理下のもと送受信されているということになる(SMTPはメールの送信にあたりコンピューター同士が通信を行うための規格)。
当たり前だが、そんなことはない。インターネットの業界で仕事をしていれば、誰もが当たり前に知っているはずのことからしてデタラメに書かれているのだ。
他にもWeb2ではGoogleのAndroidや、AppleのiOS、MicrosoftのWindowsがOS(オペレーションシステム)としてアプリケーション開発を行う根幹になっているのに対し、Web3ではビットコインやイーサリアムなどのブロックチェーンが使われる、という記述があったりもする。
ちょっと待て。一体どうやったら仮想通貨でアプリケーションを開発することができるのだ? 仮想通貨はあくまでも仮想通貨に過ぎず、開発のためのツールではない。
株式会社が「21世紀最大の発明」?
これだけだったら「技術に弱い人が、適当な解釈で書いた」という話で終わってしまう(それはそれで大いに問題なのだが)のだが、ぶっ飛んでいるのは著者の技術的知識だけではない。著者は、義務教育レベルの知識が欠落しているのか「資本主義における21世紀最大の発明は間違いなく株式会社」だと述べている。1602年に、世界初の株式会社としてオランダ東インド会社が設立されたというのは中学生で習うはずだが。
こういったデタラメが、単に個人のnoteとして売られているのであれば「また炎上系ビジネス芸人あらわる」という、よくある話で終わるのだが、衝撃的なのは、これが出版社から書籍として流通してしまったということだ。さすがに、あまりにもデタラメが過ぎる内容なせいか、本書を発行した出版社も、修正・反映した上での販売継続は難しいと判断し、販売を終了、そして回収を発表している。著者も「改めて一から勉強し直す」と謝罪し、この問題は、一応収束したかに見える。
だが、この一件は、単に知識の浅い著者が、間違った知識、情報を書籍として書き連ねたというだけではなく、様々な問題をあらためて浮き彫りにしたともいえるだろう。
そもそも、この著者は、経歴を見るとわかるように内閣官房の複数のブロックチェーンに関する会議に有識者として招かれている立場だ。有識者と見られていたからこそ、今回、この書籍を執筆したのだろうが、結局は有識者どころか、実は素人以下の知識しか持ち合わせていなかったことを披露している。内閣官房は、彼の何を見て「有識者である」と判断したのだろう。