「遺体発見が報じられてから間もなくして、福岡県警の捜査員から話を聞きたいと連絡が入りました。なんでもA子さんの携帯の通話履歴にある全員を当たっているそうで、私の場合は前年の年末に電話をしているからとのことでした。そこでは、彼女がいなくなった日の前後について、徹底的にアリバイを聞かれました。聴取は2回あり、2回目のときは、『あなたが完全にシロであることを最終確認するためです』と言われています」

 そう語るのは、かつて外資系製薬会社でMR(医療情報担当者)の仕事に就いていた男性である。

 2010年3月15日、福岡県福岡市の能古島の浜辺で、女性のものだと思われる、ヘソの下から足の付け根までの胴体部分が発見された。やがて間もなく、その遺体は同市の医薬品卸会社社員・A子さん(死亡時32)のものだと判明する。この「福岡OL死体遺棄事件」は、発生から12年を経ても、いまなお未解決のままだ。(全2回の1回目/続きを読む)

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能古島にて、遺体の捜索にあたる福岡県警捜査員 ©️小野一光

『動物か人間かわからないお尻のようなものがある』と通報が

 冒頭の元MRの男性によれば、当時はA子さんの同僚の他にも、多くの製薬会社社員、医師や薬剤師などが聴取を受けていたという。

 私自身、この事件は発生時から取材を始め、捜査に動きがあるたびに取材を続けてきた。そこで、以前は表に出てこなかった情報も含めて、その詳細を振り返りたい。

 当時の福岡県警担当・X記者は説明する。

「最初に発見された遺体の一部については、3月15日の午後3時15分頃、海岸で貝掘りをしていた地元の人が見つけ、『動物か人間かわからないお尻のようなものがある』と通報しました。切断面の状態から死後に鋭利な刃物とノコギリで切断されたと見られています。また、切断面がきれいなため、切断に使用されたのは刃こぼれしたものではなく、新品に近い刃物だと推測されています」

 じつはその2日前、福岡市東区雁ノ巣の海岸で、海上を漂う遺体(一部)を目撃したとの通報が入っており、福岡県警は捜索したが、発見できなかった。そうした経緯を経ての、遺体発見だったのである。能古島で発見された遺体については、性別は女性で、年齢は20代から40代くらいとされ、死後数日から数週間と見られていた。