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――逆に、写真だからこそ美しさが際立つ花火もあるのでは?

金武 写真だからこそ映えるのは「光跡(こうせき)」ですね。肉眼で追うのは難しいですが、写真ならその光の筋を残すことができる。たとえば「牡丹花火」の場合、ポンッと開くとき中心から光の粒が広がっていきますが、その光跡は写真でしか表わせません。

 この写真は新潟県小千谷市片貝の「片貝まつり」(2022年9月9〜10日開催予定)で打ち上げる世界最大級の四尺玉です。

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世界最大級の四尺玉 ©金武武
撮影成功までに30年かかった写真 ©金武武

 一般的な花火の中で一番大きな尺玉と四尺玉を共に……そんな思いから、何度も何度も撮影に挑戦しました。撮影に成功するまで、30年かかりましたね。

金武武が選んだ「最高の花火」3選

――花火を誰よりも追いかけてきた金武さんが、印象深かったものを教えてくれますか?

金武 まずは先程も話に出た450年以上の伝統を持つ豊橋の「手筒花火」です。揚げ手が80cmもある筒を直に持って、まるで大砲のように火を噴出する姿は勇ましくて、セクシーでもあります。さらに自分で上げる花火は自分で作るのがルール。そこもまたドラマティックです。

450年以上の伝統を持つ豊橋の「手筒花火」 ©金武武

 2つ目は、全国新作花火競技大会で賞も受賞した齊木煙火本店さんの「虹色のグラデーション」。一本の筋が何度も色を変えていくのが、本当に美しい。

虹色のグラデーション ©金武武

 残念ながら、3つ目はもう二度と撮ることのできない東京湾大華火祭の「東京タワーと花火」のショットです。

もう二度と撮ることのできない東京湾大華火祭の「東京タワーと花火」 ©金武武

 高さ333メートルの東京タワーを覆い尽くす花火が、東京湾大華火祭で上がる1.5尺玉です。「タワーと花火が同じ高さに見える」ように撮りたいと思って、あれやこれやと調べてみたところ、タワーから2.5キロ離れた場所であれば撮影できることがわかりました。

 発案から7年目にしてようやく撮れたと思ったら、翌年には撮影場所として使わせていただいたビルと東京タワーの間に大きなビルが建って、もう同じ写真を撮れなくなってしまいました。花火との出会いは一期一会、「こんなふうに見ることもできた時代があったんだよ」ということを知ってもらいたい1枚です。

花火に飽きることは絶対にない

――最後に、金武さんが考える「花火の魅力」を教えてください。

金武 夜空に開く花火を感じると、脳内物質が出るんですよね……。すごく気持ちいいし、自分は本当にちっぽけな人間なんだ、ちっぽけなことで悩んでいるなと思ったりします。でも、その花火は人間が作っているわけですから「人間ってすごい!」とも思ったり。

 花火を間近で見た際に感じる高揚感、火薬のにおい、音圧……。それは絶対にカメラのファインダーには収まらないものなので、ぜひ体で感じてほしいなと思います。僕がどれだけいい写真を撮ったとしても、やはり花火の表面の魅力しか表現できていない。写真を見て、少しでも魅力を感じたなら、実際に花火が見られる場所に足を運んでくれたら嬉しいです。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。