補修には「先立つおカネがない」
築年が40年を超えると、人間の体でいえば内臓や血管部分、建物でいえば設備や配管に支障が生じやすくなる。大規模修繕のコストが跳ね上がるのがこの時期の建物である。建物の構造によっては配管などの交換に多額の費用がかかる場合もあるが、多くのオーナーが大規模修繕費用を賄うための積立を行ってきていない。
設備や配管は補修を繰り返すことである程度の延命ができるが、多くのオーナーは建物が「まだ持つだろう」間は多額の出費は避けたがる傾向にある。なかなかテナントが入らないビルオーナーに設備を更新しようと提案しても、「先立つおカネがない」のでなかなか決断ができない。それならば「テナントが入ったら」やろう、となる。これでは鶏と卵である。
オーナーが抱える資金問題
またたとえ事態をよく理解したオーナーで、いざ大規模修繕を行おうとしても、おカネがない。では銀行から借入金を調達して実施しようにも、実は多くの中小ビルオーナーはオフィスビルを担保に自らの本業用に多額の運転資金や設備資金を調達しているケースが多く、あらたに銀行から融資する枠が乏しいケースが多いのだ。
いわんや建替えをやである。現在の新橋、神田、五反田あたりの中小ビルの賃料相場は坪当たり1万円台後半から2万円だ。それに対して、ビルを建て替えるとなると、建設費は坪当たりで150万円は下らず、数年前の3割アップとも言われている。建替えにあたっては既存のテナントには立ち退きをお願いするしかない。ところが日本では借り手の権利が異常に守られているために、多額の立ち退き料の負担を余儀なくされる。ようやっと立ち退きが完了しても、今度は既存建物の解体費が高騰している。
理由は人件費のアップと、廃棄物処理が厳格化されたことによって、処理費用が膨れ上がっていることだ。また現在多くの銀行は、建て替えにあたって建設資金を融資できたとしても、テナントの立ち退き費用については融資せず「自腹でお願いします」と言う。おかしな話だが、立ち退き料は相手によって補償額が千差万別になる傾向があるので、金融機関のガバナンス上問題になると彼らは言う。ありえないことだが、立ち退き費用がマネーロンダリングに使われるなどと真顔で言う銀行まで存在する。意味不明である。自腹で十分な蓄えがあればよいが、多くのオーナーにそんな余裕資金などあるはずがない。