約800年前の古典が初めてアニメ化され注目を集めたTVアニメ『平家物語』。古川日出男現代語訳版を原作とし、脚本を『けいおん!』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の吉田玲子が手がけた。

 「平家物語」は歌舞伎にとって、多くの関連作品を生んだ特別な存在。アニメ『平家物語』を「とても面白く観た」と語るのは、歌舞伎俳優の尾上菊之助だ。2019年には漫画『風の谷のナウシカ』を新作歌舞伎として上演、現代の作品を歌舞伎と融合させ、新しい表現を生み出しつつ、古典芸能の継承に力を入れている。

 古典を語り継ぐことについて、尾上菊之助と吉田玲子が語り合った。(全3回の3回目。#1#2を読む)

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尾上菊之助さんがナウシカを演じ、2019年に初演された新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』 ©松竹

主流じゃない人たちに焦点を当てたテレビアニメ『平家物語』

吉田 少し話がそれますが、最近、夏目漱石がマイブームで、『坊っちゃん』や『三四郎』を読み返したんです。明治時代は、立身出世主義や拝金主義が台頭しましたが、漱石が描く主人公は、時代の流れについていけず、むしろ個の価値観を大事にしている。なんだか村上春樹が描く主人公みたいだなと思ったんです。

 物語も繰り返すというか、主流と傍流、それぞれの人の物語があって、今回の『平家物語』は主流じゃない人たちに焦点を当てたんだ、と。

(TVアニメ『平家物語』より)

菊之助 なるほど。主流でない人の物語といえば、歌舞伎にも『仮名手本忠臣蔵』の外伝として書かれた鶴屋南北の『東海道四谷怪談』があります。南北さんも、昔の仇討ちを当時の現代ものとして書くときに、真正面ではなく、斜めから見て書いたんでしょうね。

 吉田さんも、主流ではないびわちゃんや重盛さんの物語を描くことによって、壮大な古典である「平家物語」を身近に感じるための入口を作ってくださったと思います。なので、古典の物語、昔の価値観というものでも、真正面ではなく斜めから描くことで、より身近に感じることができるのではないかと、これから自分が何か物を作っていくときのヒントをいただきました。勉強になります。

吉田 とんでもないです(笑)。