新たな古典 新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』
一方、菊之助さんが、再演を重ねて新しく古典になっていくようにと作り上げたのが、新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』だ。菊之助さんの高祖父、五代目尾上菊五郎は幕末から明治にかけて、世相を反映した新作を作り、江戸っ子に爆発的な人気を博した俳優。今も上演される古典歌舞伎を数多く残した。新作を作る挑戦は、代々受け継がれてきたものでもある。
菊之助 20代の頃は、自分の身体を通して古典の役を100%お客様に伝えるための訓練というか、稽古を積むことで、古典の継承に重きを置いてきましたが、幸いなことに、2005年には、演出家の蜷川幸雄さんや父の力を借りて『NINAGAWA十二夜』という新作歌舞伎を作ることができ、ロンドンも含めて再演を繰り返しています。
その後、インドの叙事詩から『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』を作るなど、新作を作る経験も積んできました。その中で、自分は普遍的で壮大な物語が好きだと気が付いたんです。次の新作歌舞伎はどんなものを作ろうかと考えたときに、宮崎駿さんの漫画『風の谷のナウシカ』を歌舞伎にしたら面白いのではないか、と。
吉田 歌舞伎の『風の谷のナウシカ』を拝見して、新しいものを作ろうとしている情熱をすごく感じました。ナウシカはヒロインでもありヒーローなんですよね。男性の菊之助さんが演じることで、性別を超えた美しさや強さがある魅力的なヒロイン&ヒーロー像になっていると思いました。現在、戦争が起きているせいかもしれませんが、今『ナウシカ』を観ると、「この人生を、この世界を愛して生きていく」という物語の芯が、あらためて胸に迫りますね。
菊之助 原作は、文明の滅んだ千年先から現代を照らし出し、問題提起しています。歌舞伎では、地球全体を舞台にしたり、環境問題やAI、核の問題を扱うことはなかったのですが、今のお客様に何を訴えたいのかを考えて作り上げました。飛行艇が戦う場面など、歌舞伎としてどう表現するか課題はたくさんありましたけれど(笑)。
原作の世界観を壊すわけにはいかないですし、一方で歌舞伎役者の身体性が生きる脚本でなければいけない。古典歌舞伎の手法との合流地点を、稽古場で毎日探る作業をしていました。