「劇団獅子 辻監督 with ゆかいな仲間たち」

 一見、野球とは全く関係なさそうなプロ野球の動画コンテンツが、密かに人気を博している。

 物語の舞台はライオンズの本拠地・ベルーナドーム。試合開始直前、守備位置に散らばるスタメン選手たちをカメラが捉える中、その最後を飾るのが、昨年の最下位から巻き返しを狙う辻発彦監督だ。チームの最高指揮官が画面に登場するその時、「劇団獅子」の幕は上がる。

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 8月初旬にアップされた動画は傑作だった。辻監督と2本のスプレー缶を持った選手1人が登場し、なんと監督の顔の前で白煙がクロスするようにスプレーを噴射する。顔を隠された辻監督がその選手にツッコミをいれ、オチをつけるというなんともコミカルなやりとりのものだ。

 これがツイッター上で、およそ13万回再生を記録した。こういう現象を世の中では「バズる」と言うのだろう。

 パ・リーグ公式動画サイト「パ・リーグTV」のYouTubeでは、「劇団獅子」のパフォーマンスを3分ほどにまとめた動画も発見した。現在までに、なんと約42万回再生を叩き出すなどバズりまくっている。

 今やライオンズのホームゲームに欠かせないアトラクションとなった「劇団獅子」。その発案者にして、作・演出を務めるのが、高卒8年目を迎える内野手・山田遥楓だ。先ほど紹介した「スプレー噴射男」は彼の仕事である。

山田遥楓

山田と私の共通点

 ライオンズファンには、どこにいても聞こえてくるほどの大きな声がトレードマークとして知られている。ルーキーのときから「声だけは負けない」と、守備についてもベンチでも、どんな時でも常に全力で声を出し続ける。その姿は、入団から8年たった今でも変わらない。

 7年目の去年、一軍でキャリアハイの98試合に出場した。打撃はまだまだ思うような成績を残せていないものの、入団当初から評価の高かった守備では今年もしっかり存在感を見せている。

 持ち味は強肩で、三塁から見せる強烈なスローイングは一塁手のミットを吹き飛ばしそうなほどだ。その光景は「爆速送球」と名がつき、これまたパ・リーグTVの“ネタ”になった。その再生数はおよそ38万回を記録し、プレー動画もしっかりバズらせている。

 プロ野球界きってのエンターテイナーといえば、ファイターズの杉谷拳士だろう。ただし今年はBIGBOSSの指令で、パフォーマンスを控えている模様だ。その間隙を縫ってプロ野球動画コンテンツ界のニューヒーローが誕生した。「とにかくバズりまくる山田遥楓」だ。

 山田が発する底抜けの明るさは、どの動画からも伝わってくる。その姿を見ていると、こちらも自然にほころんでしまう。なぜ彼は、こうも魅力的なのだろうか。

 様々な思いを巡らせていると、先日、こんなツイートを見つけた。

「最近ライオンズファンになった人は、山田遥楓が生まれつき右耳が聞こえないの知ってる人少ないんだろうな。山田遥楓は昔から見てても片耳しか聞こえてないなんて思えない。難聴抱えながらもここまでやってるのほんとに凄いよ。これからも頑張れ遥楓」(@kaita_lions10さんのツイートを引用)

 そう、山田は右耳が全く聞こえない。しかしプレーしている姿を見ていても、ハンディキャップを抱えていることなど微塵も感じさせない。

 私が山田に惹かれる理由の一つもそこにある。彼と同じで、左耳が全く聞こえないからだ。