ライオンズがしぶとく首位に立ち続けている。今週はホークスとの首位攻防戦を2勝1敗と勝ち越したのに続き、バファローズには2敗ながらも、2位ホークスとのゲーム差は0.5。

 ライオンズナイター解説の東尾修さんが物珍しそうに「ライオンズの防御率が1位なんですよ。だから『今』ちゃんと言っておかないとね、エヘヘ」と話していたのは5月半ばの話だが、それは『今』だけでなく、3ヶ月経った今も変わりない。

 夏場を迎え、投手陣に疲れが見え始めてもおかしくない時季になっても踏ん張り続けているライオンズ投手陣の力が、偶然などではないことは言うまでもないだろう。

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 その頑張っている投手陣がヒーローインタビューなどで度々口に出すのがキャッチャー・森友哉の名前だ。

「友哉もいろいろ工夫してくれて、非常によかったかなと思います」(7月30日、プロ初完投初完封の與座)

「状態も悪くなかったので友哉を信じて投げるだけでしたし、本当に友哉がいいリードをしてくれたなと思います」(8月3日、平井)

 指揮官・辻発彦監督も8月16日のホークス戦、2-0と零封勝利をおさめたあとのインタビューで、高橋光成に関して訊かれているにもかかわらず「今日は森友哉のリードが光ったような気がします。徹底して相手の弱点に粘り強くいったのと、裏をかいて三振を取ったところもありました」と、そのリードを絶賛したほど。

 森友哉の存在が、今年ひと際輝いて見えるのは間違いではないようだ。

森友哉

あのケガを経て、リードに変化

「森が素直になったよね」と評するのはこちらもライオンズナイターの解説でおなじみ、兄やん・松沼博久さん。「あのケガ以降、別人のようだよね」と言う。

 あのケガ――。

 4月2日のマリーンズ戦。8-1と大きくリードを許す展開でスタメンマスクの森が退いた後に、まさかのグラウンド外で起きたアクシデントだった。マスクを投げつけたことに起因する右手人差し指の骨折。チームは前日1日に故障で主力の山川を抹消したばかりで連敗中、正捕手の離脱がさらに追い打ちをかけるできごとになったのは言うまでもない。

 辻監督も「勝つためにチームひとつになって、自分は何をしなきゃいけないのかをまず一番に考えて野球をやる、チームのために野球をやるっていう、全員がそういう気持ちで戦おうってなってるときに。チームとして許されることじゃない」と語気を強めた。それほどまでに痛く、やるせない離脱だった。

 その後、森はリハビリ、ファームでの実戦を経て、5月24日に一軍復帰となったわけだが、復帰後の森の変化を松沼博久さんはこう見る。

「これまでは打者目線での配球だったのが、投手目線に変わったよね。それまでは打者としての意識の方が強かったのか、打者・森としての弱点のボールを続ける傾向にあったから。特にインコースの使い方は変わったと思うよ」

 どう変わったのか。

「今は投手が考えてることを思いながらインコースを使っている。使い方に愛があるんだよね。投手からしたら、インコースはやっぱり投げにくいもので。当ててしまう可能性があるから。2球も3球も続けられると、心のどこかで逃げちゃうんだよ」

 投げにくいボールを要求され続ければ投手は萎縮し、仮にその配球が正しかったとしても間違いが起きる可能性が高くなる。反対に、投げやすい配球であれば、投手は能力を発揮しやすくなる。

 思い返せば今シーズンは、ここぞの1球に泣くことが少なくなったのではないか。一か八かは耳あたりがいいが、ともすれば無茶な勝負ということになる。投手心理に寄り添った配球が、結果的に確実性の高い配球になっているというのだ。

 さらに兄やんは「リードの仕方も、投手によって変えてるよね」と言う。

「コントロールの良い投手には際どいところに構えていても、コントロールがアバウトな投手にはそこまで厳しく構えない。ボール一つ余裕を持たせる、というのかな。俺の時、伊東勤なんかは真ん中にしか構えなかったけどね。『どうせ構えても投げられないでしょ』って(笑)。そこまではいかないにしても、これまでは『俺はこんなリードをしているぞ』と自分本位に見えることもあったけど、今の森は導いていくスタイルに変わったと思うよ」

 引っ張るのではなく、導く。投手を気持ちよく乗せ、考えさせる。実に大人なやり方だ。