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50歳目前で子宝を授かるも、「もう一人いますね」と…双子特有の難病で壮絶すぎた“大難産”までの道のり

『大難産』山野一インタビュー

2022/09/08

source : 文春コミック

genre : エンタメ, 読書, 医療

 

 双子で難病!? 50歳目前で子宝を授かった元・鬼畜漫画家の、超大変かつドラマティックな出産・育児コミック『大難産』が話題になっている。著者である山野一さんは1998年に死去したカルト漫画家"ねこぢる"の元夫で、2006年に再婚した。山野さんに執筆の動機や創作の苦労、読みどころなどについてお聞きした。

【マンガ】「大難産」第1話から読む

双子だと判明して「四暗刻単騎W役満ドーン!」

――『大難産』を描き始めたきっかけは何だったんですか?

山野 Kindle版『そせじ(双生児)』という育児漫画を2014年から描いてます。幼い双子であるミミ子とハナ子の日常を、父である漫画家・やすおと母のクチ子をまじえて描いた作品ですが、その漫画内漫画として2巻目から始めたんです。

 時系列的にはこちらの方が先なのですが、最初から難産の話だと重すぎてとっつきが悪そうなので、まずは平穏な日常風景から始めて、双子のキャラになじんでいただいてから、出産の話へ持っていこうとアホなりに工夫しました。でも、いざ始めると案外長くなって、まさかこんな長編になるとは思ってませんでした(笑)。

――作品の中で描かれているのは事実なんですか?

山野 一応フィクションと銘打ってますがメモを取っており、実際に起きたことをなぞっているので、大体事実に即しています。ただ、日記や出産本という側面より漫画的な面白さを優先したかったので、編集や脚色が結構入っています。

――たとえば、どんなところがフィクションですか?

山野 流産だと思っていたら双子を妊娠していたことが分かって、クチ子が「四暗刻単騎W役満ドーン!」と叫ぶシーンがありますが、実際には妻は麻雀をやりません。正直私は「何? 双子だと! こんな貧乏でやってけるのか?」とまず不安な気持ちにかられたのですが、妻は手放しで喜んでました。そのカンジを表現するのに麻雀がちょうど良かったのです。実際、妻が言ったのはポーカーの役でした(笑)。

 

――一方、TTTS(双胎間輸血症候群)という一卵性双生児特有の難病であると診断される場面は、かなり深刻そうでした……。

山野 その時はかなりショックを受けました。本来独立しているはずの二人の胎児の血流が、まちがってできた血管でつながってしまい、片方の胎児からもう一方の胎児へ一方通行で流れてしまう病気なんです。血を持ってかれる側の胎児がどんどん小さくなっていく時は、なんともいたたまれない気持ちでした。当時はその手術はまだ公的保険の適用外で、倫理面でのハードルもあったので、そんな状況だからといってすぐに手術するというわけにもいかなかったんです。

 費用も保険が利かない分高かったのですが、それでも当時その手術ができた他の数ヶ国からすると、桁違いに安かったと後から知りました。「お前たち日本に生まれて来て運が良かった」と双子には話しました。

浮遊する巨大ミジンコは何の予兆?

――闘病中、さまざまな予兆やシンクロニシティ的なシーンが登場するのも印象的でした。胎児間の血管をレーザーで塞ぐ手術の直前に、病室の窓の外に無数のくらげのようなミジンコのような物が出現したシーンは、実際に見えたんですか?

山野 はい、見えました。診察中の双子の心音が部屋に響いていて、遥か遠くのガスタンクに反射する陽の光を見てたら、急にブワッと地面から湧き出してきて、空に向かってゆっくり上昇しているのです。半透明ですが目をこらしてもハッキリ見えるんです。手のひらに冷や汗をかいていたのですが、どっか落ち着いたとこもあってじっと観察してました。それはガラス越しの外でのみ泳いでいて、内側には少しもはみ出して見えないのです。

 

 幻覚なら、視線を移すと、室内の壁や床、どこに投影されてもよさそうなものなのに、窓枠できっちり区切られてるのです。私の脳は私にどうやってこう見せてるんだろう?と考えてました。

 それが何かの予兆や啓示で、後に起きた何かと符合してれば、漫画の中でも収まりが良かったのですが、特に何も起きずじまい……。ただ印象的な経験だったので、そのまま描きました。私のボケが進んだある夕方に、ひょんなことからその意味が解るのかもしれません(笑)。

――手術後、寝返りを打つことさえも禁止される「暗黒の4日間」が始まります。クチ子の枕元に、死んだ伯父さんが現われたのは本当ですか?

山野 漫画に描かれてるような姿そのままで現れたということはないと思います。ただ、嫁は伯父が亡くなるのとほぼ同時に双子を懐妊しているので、なにかしらの因果を感じていたようです。授かった子は伯父さんの生まれ変わりじゃないかしらと、夫婦でもよく話題にしてました。「早く結婚しろ、子供を産め」と口うるさく説教はするものの、とても朗らかで優しい伯父だったようです。

 

 身動きもとれず、精神的にも追い詰められた状態で、伯父さんがよりそってくれていると感じた瞬間が何度もあったそうです。その後生まれた双子に初めて対面した時、嫁が言ったのが「顔、伯父さんに似てる!」。夫婦して「似てる」「似てるわ」と話していると看護師さんが怪訝な顔をするので「先日亡くなった嫁の伯父です」と説明すると「そうなんですか……」と腑に落ちなそうな顔をしていました。普通は親のどちらに似てるか気にしたりするんでしょうね(笑)。

――その後、出産するときに破水したクチ子がやすおに電話します。ところが、まったく応答がなく、不在着信が13件にも上ったという件はどうなんですか?

山野 それは事実です。出産はまだ何週間か先だと油断してました。仕事帰りに酒を呑んで泥酔してしまって。今でも夫婦喧嘩がこじれると、この最終兵器が持ち出され、頭が上がりません(笑)。

 
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