さまざまな映画から社会事象まで痛快に斬った批評集『お嬢さんと嘘と男たちのデス・ロード』が話題のイギリス文学者・北村紗衣さん。新著『べつに怒ってない』を上梓した武田砂鉄さんと特別対談が行われた。
編集者が止めた5倍変なタイトル
武田 初めまして。新著『お嬢さんと嘘と男たちのデス・ロード』、とても印象的なタイトルですね。前の単行本が『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』でしたから、この、平松愛理の『部屋とYシャツと私』的なゴロの良さは、何かこだわりがあるんですか?
北村 いや、特になくて。各誌に書いた映画批評も多く収録した本なのですが、編集者の方からの提案で決めました。毎回、最初はこの5倍くらい変なタイトルしか思い浮かばないんですよ。
武田 当初の5倍変なタイトルとは?
北村 『ストリッパーズ、スターリン、J.F.K』でした。
武田 それは編集者が止めますね! 本題に入る前にまずお聞きしたかったのが、本書に、子供の頃に水道管が背中に刺さったエピソードが出てきますよね。いったいどうしたらそんなことが起こるんですか。
北村 北海道の祖父母の家のお風呂に給水する蛇口が、風呂桶の外側にも出せるような長く突き出た昔のタイプだったんですよ。お風呂から立ち上がるときにうしろに蛇口があるのに気づかなくて……すごくいっぱい血が出ましたね。
武田 かなり痛かったでしょう。
北村 痛かったです。あと、子供のときに頭が割れたこともあるんですよ。河川敷を走っていたら転んで、額からドッと出血。あまりの痛みに失神したように動けなかったみたいです。
辛辣に書いているつもりは全くない
武田 なかなかヘヴィな体験を重ねてこられましたね。僕は高校時代、弱小バレー部だったんですけど、まだ張る前のダラーンとしたネットを走り高跳びの要領でジャンプしようとしたら、足をネットに引っかけて頭を強打したことがあります。一歩間違えれば大怪我につながるようなことが子供の頃っていくつか起きていますよね。
北村 私は大人になってからも歩いてて転倒したりとか、いろいろな場所で落ちた話がいっぱいあるんですけど……。
武田 痛い話はこのくらいにして本題に入ると、北村さんの文章を読んでいると、あるタイミングで突然、相当な辛辣さで斬り込んでくる切れ味が痛快です。この書き方というのは意図的なものですか?
北村 そこはあまり自覚がなくて、私としては辛辣に書いているつもりは全くなくて、素でやってるんですよ。
武田 たとえばディズニー嫌いを公言されていますが、どのあたりがお気に召さないんでしょう。