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「シェイクスピア劇は相撲のラジオ中継のよう」 北村紗衣さんと武田砂鉄さんが語る“ウザがられる批評”

source : ライフスタイル出版

genre : エンタメ, 読書

note

 私は雑食性が高くていろいろ聴きますが、一番好きなのは70年代のデイヴィッド・ボウイやT・レックスとかの、グラム・ロックからパンクにいくあたりですね。商業的には男性中心だけれども、見せ方がちっともマッチョでなくて。

武田 北村さんは音楽に限らず、日本のエンターテイメントを見ていてマチズモ(男性優位主義)やジェンダーギャップを感じることってありますか。

男性芸人が女性芸人の胸を豪快に揉んで……

北村 日本のテレビで気になるのが、容姿をいじってネタにする笑いですね。私の観測範囲ではイギリスでもアメリカでもこれはかなり廃れています。日本も昔よりは女性芸人のブスネタとかはだいぶ減ってきたとは思いますが、ひどいのは男性の容姿いじりで、太っているとかハゲているとかをいじって笑いにするものがまだまだあります。

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武田 日本のバラエティの作り方って、真ん中に偉い芸人がいてひな壇にわっと人がいるから、そこで目立つためにもっとも簡単な方法として、自分のウィークポイントをさらけ出すってことになりがち。それを偉い芸人にいじってもらうという構造で成り立っています。

 

 僕は批評の題材にテレビをよく取り上げていますが、5、6年前、あるバラエティ番組で先輩の男性芸人が女性芸人の胸を豪快に揉んで「気持ちいい?」と聞いて、女性が「ちょうどいい揉み具合です」と返して盛り上がっているシーンがあって、「なんでその男性芸人は逮捕されないんだろう」と書きました。

 さすがに近年そういう露骨なセクハラは放送されなくなりましたが、それを「最近はコンプライアンスがうるさくて、面白いものつくるのが大変だよね」なんて懐かしむ人たちがいる。あんなもの5年前だろうが何年前だろうが、面白くないものは面白くない、やるべきではない。

いちいち野球に迂回して話す人が妙に気になってしまう

北村 武田さんの新刊『べつに怒ってない』は、てっきりそういう世の中へのさまざまな怒りが込められている本かと思ったら、気軽に優しく読める本でしたね。

武田 「べつに怒ってないよ」と言う人は、たいていその前になにかあって怒ってる人ですけどね(笑)。

北村 この本のなかで一番気になったのが、「なんでもかんでも野球のたとえ話で説明する大人になってはいけない」という指摘でした。

武田 たとえば「君は三振は多いけど、ホームランバッタータイプだな」とか「武田はバントでつないでいくタイプだな」とか、いちいち野球に迂回して話す人が妙に気になってしまうんですね。「失敗は多いけどたまに大きな仕事するよね」「武田は大きな仕事しないけど細かく堅実にやってるよ」でいいのに。