文春オンライン

「シェイクスピア劇は相撲のラジオ中継のよう」 北村紗衣さんと武田砂鉄さんが語る“ウザがられる批評”

source : ライフスタイル出版

genre : エンタメ, 読書

note

 しまいには「イチローだって打率3割。失敗を恐れるな」なんて言う人が出てくる。世の中には性質の違う仕事がたくさんあるのに、「あなた、論文、大丈夫ですよ、イチローだって7割は失敗してるんだから」なんて言われたら、絶句しますよね。

北村 たしかに安全点検する仕事とかの人が「7割失敗でもOK」と言われたら、とんでもないことになりますね。イギリス人だと、なんでもサッカーに例えて話をしたがる人がいるなぁ、と思って読んだんですね。サッカー由来の熟語も多く使われていますし。

 じつは私、相撲のたとえ話が好きでよく授業で使ってしまってるんですよ。

ADVERTISEMENT

武田 どう使っているんですか?

 

シェイクスピア劇と相撲ラジオ実況の共通点

北村 シェイクスピア劇はやたらとセリフが多くて、登場人物の動きをひとつひとつ言ったりするんですが、「シェイクスピア劇は相撲のラジオ中継みたいなヤツだから」と説明しています。

 相撲のラジオ中継は音声だけでも相撲の様子が想像できるように、アナウンサーが技とか全部細かく実況するじゃないですか。昔のシェイクスピア劇の舞台は後方の席が観やすくない環境だったし、照明も舞台装置もないので、「陽が出てきた」「夜になった」と全部セリフで時間帯や人の動きを伝える必要があったんです。だからその頃の人は「芝居を観る」ではなく「芝居を聴く」って言ってたんですよ。

 

武田 へぇーっ!! 「何々関が攻めて上手のまわしをつかんで、相手側もまわしを……」って言葉をどんどん重ねていく形、これがシェイクスピア劇のセリフと近いわけですね。

北村 そうなんです。いまの若い学生は相撲のラジオ中継をあまり聴いたことがないでしょうに、私はしょっちゅう相撲の話をしていたなと反省して。

批評家は18世紀からウザがられていたからしょうがない

武田 必然性のあるたとえ話は素晴らしいと思います(笑)。ちょっと話が変わりますが、いまの時代、批評家って嫌われがちですよね。僕は音楽ライターの仕事もしていますが、前提として大ファンであることを求められるので、そうなると原稿としてはあまり面白くなりえないところがあって悩みます。

 北村さんはよくファンダム(熱烈なファン集団)について書かれていますが、表現者とファンの距離感が極めて近い今、あいだに割って入る批評はそもそもウザいとされる。そのあたりどう捉えていますか。

北村 批評家は18世紀からウザがられていたんで、しょうがない! もう諦めて仕事するしかないと思ってます!