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それでも大橋貴洸は“タイトル”を目標に掲げる「意識することが自分自身のモチベーションに」

それでも大橋貴洸は“タイトル”を目標に掲げる「意識することが自分自身のモチベーションに」

大橋貴洸六段インタビュー #2

2022/09/07

――デビュー戦の竜王戦6組ランキング戦では、アマ強豪との対戦で敗れています。

「あのときは独特の緊張感があり、自分の力を出せなかったと反省した覚えがあります。三段リーグで通用してもプロで勝てるかわからなかったので、半年か1年はそれを試す期間と割り切っていました」

――デビュー半年間の成績は2勝4敗。そのうちの2敗は藤井四段(現五冠)でした。

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「長時間の対局に慣れていなかったと、自分で分析しました。藤井さんはプロになってからも勝ち続けていて、それは凄いなと思った。自分はどれだけ対応力をつけられるか。プロの対局は記録係として見ていたものと違うんです。持ち時間が5時間とか6時間の対局の記録もとりましたが、やっぱり気楽に見ていたというか、わかっていないところがあった。あと奨励会の対局とは緊張感も違う。早指しで結論を出すのが早かったのですが、考えることの大切さをプロになってから感じました」

――将棋を覚えたのが小学4年生の時で、プロの中では遅い方です。始めるのがもう少し早かったらと思ったことは?

「それはないですね。いろんな経験を親がさせてくれて、その中で自分にとっては将棋だったんです。将棋に出会う前でしたが、親子で行く企画に応募してくれて、電車を作る工場の見学に連れて行ってくれたことがありました。普段は目にすることができない工程を見られて、本当に面白いと思いました。そうした経験の中から将棋を見つけてくれたというか。とても感謝しています」

 

24歳でのプロ入りは、その後の“信頼”にも陰を落とすのか

 大橋と藤井が同期昇段したとき、2人の年齢差が10歳あったことが、藤井の若さをより強く印象付けた。一方で、筆者は20代半ばの大橋が、プロ棋界でどれだけ活躍できるのかとの思いもあった。

 大橋はデビュー戦に負け、順位戦の初戦でも負けた。藤井の連勝が続いただけに、どうしても大橋の成績は見劣りしてしまった。だが新年度から快進撃が始まったのは、先に述べた通りである。その後も3年続けて対局数、勝利数、勝率で上位10位以内に入った。それでも将来が期待される若手の中に、大橋の名前を聞くことは少なかった。

 準公式戦ABEMAトーナメントは、2020年から団対戦になり、トップ棋士12名(翌年から15名)がチームメイト2人をドラフトで指名した。この企画はライバルでもある棋士への評価が見られるという意味で、面白い試みでもあった。