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 活躍している若手棋士の多くが選ばれたが、その中に大橋の名前はなかった。指名が個人的な繋がりになった傾向はあったが、大橋のデビュー以来の実績は、もっと評価されてもよかったのではないか。このことについて山崎隆之八段に聞いたことがある。

「あれは僕もちょっとビックリしました。関西棋士室でも話題になった気がします。『大橋君が選ばれないの?』みたいな。早指しが得意なのも知っていましたから。指名する側に関東の棋士が多く、棋士室のような場所で指したことがないと、強さがわからないというのがあったかもしれない」

 棋士になる年齢は、若いほど期待値が大きいとされる。実際、タイトルホルダーの多くは10代でデビューを果たす。24歳でのプロ入りは、その後の“信頼”にも陰を落とすのだろうか。不躾とわかりながら、大橋に質問をした。

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 自分はプロの中での評価が高くなかったと思うか?

「ああ、どうなのでしょうか。実際そうだったかもしれません。僕はトップ棋士の見解はわからないので、そこは何も言えないですけども」

 年齢が高めでプロになったことが影響していると感じたことはあるのか?

「僕に聞かれてもわからないですよ。明快に選ばれなかった理由はこうですと言えればいいんですけども、僕が言うとすべて推測になってしまうので」

 言葉に質問を続けさせない強さがあった。

「自分としては精一杯やるだけだと思っていました」

 挑戦者決定トーナメント決勝。

 大橋の長考が続いている。66手目に104分を費やした。大橋の執念は実を結ぶのか。豊島の攻めが大橋陣に襲いかかり、際どい攻防の中、じわりじわりと差を広げていく。

 大橋が先に持ち時間を使い切り、秒読みに入った。モニターを観ると考慮に沈む姿はなく、気持ちの整理をつけているような印象を受けた。

 20時15分、大橋が「負けました」と告げた。

 

 感想戦が終わると、大橋は静かに対局室を出た。豊島はそのまま残り、インタビューのために記者たちが再び集まり始める。筆者は大橋の後を追った。

「少しお話をお聞きできますか?」

 いくばくかの逡巡の後、「できれば今は……」と宙を見つめた。だが「簡単にでしたら」と彼は続けた。

 すでに正面玄関は閉まっており、警備室の隣の通用口から外に出る。表通りと違って行き交う人の姿はなかった。日中の暑さも、この時間には和らいでいた。

――今日の対局にどんな気持ちで臨まれたのか?

「こういう大きな舞台で戦わせていただく機会に恵まれたことに感謝して、自分としては精一杯やるだけだと思っていました」