2022年は歴史的な「投高打低」のシーズンになりそうだ。

 8月27日、日本ハムのコディ・ポンセ(28)が札幌ドームで行われたソフトバンク戦で、ノーヒットノーランを達成した。4月の佐々木朗希(ロッテ)の完全試合を皮切りに、「ノーノー」達成投手はこれで今季5人目。セ、パ両リーグ分立前の1940年にまで遡ってのシーズン最多記録に並んだ。9回までパーフェクトだった大野雄大(中日)らノーノー未遂も複数回あり、投手がバテて打者優位が定説の夏場でも投高打低に歯止めがかからない。その背景を探ると、主に三つの原因に集約され、日本野球の危機までもが見えてきたーー。

ノーヒットノーランを達成した日ハムのポンセ ©時事通信社

軍事技術を転用した弾道測定器「トラックマン」の副作用

 多くの専門家が指摘するのが、投手の成長スピードが打者のそれを上回っている現状だ。NPB各球団は近年、MLBに倣い、軍事技術を転用した弾道測定器「トラックマン」を導入した。投球の回転数や回転軸などは即座に数値化され、投手はこれらのデータを参考にフォームを改善するなどして球質を上げていった。

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オールスターで投げる佐々木朗希 ©️時事通信社

 その結果、NPBの投手の直球の平均球速は19年の144.2キロに対し、右肩上がりに上がり、今季は146キロに到達したという。佐々木と千賀滉大(ソフトバンク)が日本人最速の164キロをたたき出し、藤浪晋太郎(阪神)や甲斐野央(ソフトバンク)も160キロ台をマークした。元中日監督で名捕手だった谷繁元信氏は「速いボールを打ち返すことにバッターが苦労している。150キロを超える球を1スイングで打ち返すのは簡単ではない。単純にピッチャーがいい」と結論づける。

谷繁元信氏 ©️文藝春秋

 逆に打者には、数値化の副作用があるとの指摘が出ている。中日などで捕手として活躍した中村武志氏は、昨季までの中日コーチ時代の経験を踏まえ、「数値化は打者では悪影響が多いと感じていた」と回想する。