ロッカールームには各打者のスイングスピードなど細かなデータが張り出されていたそうで、「数値に一喜一憂している姿に違和感を覚えた。打者はまず投手とのタイミングをしっかり取り、投球をバットの芯で捉えることが原点。これは忘れていはいけないと思う。いくらスイングスピードが速く、バットの角度が理想的でも芯に当たらなければ始まらない」と、打撃の質の低下を危惧。その上で「数値ばかり追求するなら投手優位の現状からは脱却できない」と言い切った。
トラックマンは、投手にはいいことずくめだったかもしれないが、打者には必ずしもそうではなかった。千賀はスポーツ紙上の自身のコラムで「僕はこの先、3割打者が存在しなくなる時代が来ると思っています」とさえ記している。
フライボール革命の弊害
中日で通算219勝をあげた大投手、山本昌氏はMLBを席巻したアッパースイングで外野飛球を打ち上げる「フライボール革命」を一因に挙げた。
「(打撃が)下から振り上げて長打を狙うスイングに変わった。今は(フライボール革命の)移行中で、バッターがまだ慣れていなくて、いいピッチャーが来ると当然、空振りは増える。昔のように上からたたいてセンター中心にゴロを転がせ(という打撃)だったら、内野安打とか外野に落ちる安打とかがあった。それが減ったのでは」
事実、3割打者は8月27日現在、セ・リーグで4人、パは3人しかいない。レアード(ロッテ)は打率1割台で、山倉和博(巨人)以来40年ぶりとなる不名誉な、規定打席に到達しての「1割打者」誕生の危機に直面する。フライボール革命は、既に高校野球でも模倣されており、中日などで通算403本塁打を放った山崎武司氏は「打撃が間違いなく大味になっちゃう」と警鐘を鳴らす。