米大リーグ、パドレスのダルビッシュ有投手(35)がワールド・ベースボール・クラシック(WBC)出場が決まったかのような雰囲気に、ナーバスになっている。

 8月9日、本拠地の米サンディエゴでワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本代表の栗山英樹監督(61)の訪問を受けた際、ツイッターに同監督とのツーショット写真を掲載した上で「いろいろな話をしていただきました。遠いアメリカまで足を運んでいただいて感謝しかありません」と思いをつづった。WBC出場に「僕はもういいでしょう。自分がいても足を引っ張るだけ」と消極的だった先月下旬から一転、「栗山監督と一緒にやりたい気持ちもある。若い有名な選手と一緒にプレーできる機会はなかなかない。すごく魅力的だと思う」と前向きな発言が飛び出した。

 ところが、これをNHKが見出しにして記事化するとツイッターで「話した内容の一部を切って見出しにするのは本当にやめてほしいです。まだお話をいただいただけで、何も決まっていません」とコメント。その直後にはラジオ配信アプリで「まだ出発点。やっと考え始めたところ。理解して欲しい」とくぎを刺すほどの念の入れようだ。

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公式Twitterより

 ダルビッシュについては、元レスリング世界女王の聖子夫人が6月に第5子の妊娠を報告した。WBCに出場すれば家族に負荷が掛かる。ダルビッシュの「家族が一番。オフは毎日一緒にいて、みんなで子育てする。父親不在の時間が増えることを含め、考えないといけない」との懸念は理解できる。

 さらに慎重になる理由には、WBC参戦による肉体的な負担を挙げる。

「来年37歳。(メジャーでの)162試合を控えて2月中旬にぼんぼん投げないといけない。投手は肩、肘に負担が掛かる」

 これまでWBCで投げた投手がシーズンで成績を下げることが多かったが、開幕前にピークをつくれば、公式戦への悪影響が及ぶのは必至だ。

メンタル不調を経て完全復活、大台も射程

 ダルビッシュは今季、5年ぶりに10勝に到達した。直球の平均球速は昨季の152キロに対し、今季は153.2キロに上げた。全てがウイニングショットになると言われる多彩な変化球も健在で、衰えを知らない。

 20年は最多勝に輝きながらもコロナ禍で60試合開催だったため8勝。パドレスに移籍し、エースに期待された昨季も8勝11敗に終わった。16年末ごろから約2年半、陥ったメンタルヘルスの不調など紆余曲折を経て、完全復活を印象づけた2桁勝利で「うれしいし、自信になる」とは偽らざる本音に違いない。

今季は大谷よりも早く10勝に到達 ©️時事通信社

 メジャーでは野茂の123勝に次ぐ通算勝利数を挙げ、日米通算200勝を射程に捉える。WBCに出場することで、今季軌道に乗ったペースに陰りが出ないとも限らない。年齢も加味すると、200勝に向けては1年1年が勝負で、名誉だけでは出場に踏み切れない事情はある。

 そのWBCでは2009年の第2回大会の決勝で抑えを務めた。イチローの延長での決勝打の直後を締め、胴上げ投手にもなった。12年にレンジャーズ移籍に至ったが、08年の北京五輪とともに、当初は興味がなかった海外に目を向ける契機となった大舞台である。「いい思い出がたくさんあるので、いつかまた出たい気持ちはあります」との言葉は決してリップサービスではないはずだ。