がん患者なら、だれもが最良の手術を受けたいと願うもの。しかし「切るか切らないか」など悩みは尽きません。そこで名医と称される専門医たちに尋ねてみました。
「自分が患者だとしたら、どんな治療を受けたいですか?」
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酒・たばことの関係がとても強いのが食道がんだ。とくに要注意なのが、コップ1杯の酒で顔が赤くなる人。アルコールに弱い体質なのに飲む人は、リスクが高いことがわかっている。接待で無理な飲酒をくり返し、あげく食道がんになったという話も多いそうだ。
「お酒を飲み、たばこを吸う人、お酒を飲むと顔が赤くなる人、食道がんになった家族のいる人、食道の病気がある人などリスクの高い人は、50歳を超えたら定期的に、がんの専門病院で内視鏡検査を受けてください」(都立駒込病院内視鏡科部長・門馬久美子医師)
粘膜にとどまる早期がんの段階であれば、胃がんと同様、食道を残したまま内視鏡で治療できる。食道がん患者は、食道の別の場所やノドにも新たながんができやすいが、これらも早く見つければ取り除くことができる。「食べる、話すという人生の楽しみを奪われないためにも、早期発見が大切」と門馬医師は強調する。
ただし、細長い管である食道の径は2~2.5センチと狭く、隣り合う心臓の拍動で動くので、内視鏡の操作は容易ではない。また、円周を4分の3以上はぐと、粘膜が治る際に狭窄してしまうため、これを防ぐ対処も必要となる。さらに、食道の壁の薄さも問題だ。門馬医師が言う。
「胃壁が8ミリほどあるのに対し、食道は約4ミリしかありません。心臓、大動脈、気管支など重要な臓器が隣接しているため、食道に穴を開けてしまっては大変です。ですから、食道がんの内視鏡治療は、食道外科医のバックアップがある病院で受けるべきです」
ところで、がんの手術の中で、食道がんほど大きなものは他にあまりない。
食道は気管、心臓の背側、両肺、大動脈と背骨に挟まれた体の奥を通って、胃につながっている。そのため、食道の大部分を切除する手術の際には、頸、胸、腹の3カ所を切開しなければならない。さらに、食道を再建するのに、細長く形成した胃を吊りあげたり、腸を移植したりする必要がある。筆者は様々ながん手術を見学してきたが、食道がんは「まるで改造人間の手術だ」と思った。
このため、からだの負担を少しでも減らそうと、胸腔鏡や腹腔鏡を使った手術がおこなわれている。食道がんの胸腔鏡下手術の第一人者・大阪市立大学病院食道・消化管外科(第2外科)教授の大杉治司医師は、やはり「この手術を受けたい」と断言する。