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 胸に小さな穴をあけて専用の細長い器具を挿入し、モニターで胸の中の画像を見ながら操作する胸腔鏡下手術は、開胸手術に比べて肺にかける負担が少ないので、術後の呼吸障害が少ないと言われている。

「わたしの患者さんの中には、術後フルマラソンを走った人や六甲縦走した人もいます」(大杉医師)

 ただし、食道をむき出しにし、リンパ節を根こそぎ取る操作は開胸手術と変わらない。「小さな手術と思われては困る」と患者に話しているという大杉医師は、「もっと大事なことがある」と強調する。

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「胸腔鏡を使えば、従来は気づかなかった小さな血管や神経まで拡大視できるので、手術の精度が格段に上がります。それに、カメラの画像は録画されており、後で自分の手術をチェックできます。これを欠かさずすることで、いまも技術は向上し続けています。もし手術を受けるなら、数カ月前の自分より、いまの自分に受けたいぐらいです」

 これに対し、約2200例と日本有数の食道がん手術をおこなってきた順天堂大学医学部附属順天堂医院がん治療センター長の鶴丸昌彦医師は、胸腔鏡下手術を導入していない。実は94、5年ごろ、いち早く試みたが、「食道がんには無理」と結論づけたという。

「胆のう摘出術に腹腔鏡を使っていたので、食道にも応用できると思ったのですが、当時はカメラや器具がよくなかったせいもあって十分にリンパ節郭清ができず、結局最後は、開胸せざるを得ませんでした」

 かつてに比べ、カメラや器具の性能は格段によくなった。とはいえ、胸腔鏡下手術の手技を身につけるのは容易ではない。鶴丸医師は頭から否定はしないものの、安全性を重視するあまりリンパ節郭清が甘くなり、控え目な手術になってしまっては、「がん手術の基本から外れる」と危惧する。

©iStock.com

「早期がんなら胸腔鏡下手術でいいかもしれません。しかし、十分なリンパ節郭清が必要な場合は、開胸で丁寧な手術を受けたいです。かつて食道がんの手術は拡大の一途をたどり、手術がうまくいっても、患者さんのダメージは大きかった。ですが現在は、必要十分な範囲を切除する方法が確立されています。麻酔や薬剤も進歩し、術後の経過はとてもよくなりました」

 とはいえ、食道を残して治療したいとだれもが思うだろう。そこで、10年ほど前から注目されるようになったのが「化学放射線療法」だ。食道がんは放射線が効きやすいが、抗がん剤を併用すると、さらに効果が高まることが知られていた。進行度Ⅱ~Ⅲで、手術と遜色のない成績も出ている。