「漫画を描いてきたからこそ、画家としての創作の幅が広がったのは確かです」

 昨年、54歳にして「画家」デビューを果たした柴田亜美さん。これまで『南国少年パプワくん』や『自由人HERO』『ジバクくん』など数々のヒット作を生み出した柴田さんだが、実は漫画家時代は「描きたいものが描けない状況」に葛藤があったという。

 彼女が画家になって気づいた「本当に描きたかったもの」とは?(全3回の3回目/#1#2を読む)

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柴田亜美さんが本当に描きたかったものとは?

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想像以上に過酷だった「画家の生活」

――絵は1年に何枚くらい描くんですか?

柴田 実は現代アートの世界って、すごい枚数を描かなきゃいけないんです。デビュー前は、うんうん唸りながら1枚描くのに数ヶ月くらいかけられるものと思うじゃないですか(笑)。

 でも実際は年に20枚〜30枚ぐらい描かなきゃいけない。お陰様でアートコレクターの方も増えてきたし、海外富裕層の青田買いもすごいですね。

作品『雲竜』(画像:柴田亜美さん提供)

――漫画家時代と同じように、忙しい生活を。

柴田 年3回のアートイベントのほかに、個展の作品もためなきゃいけないし、スケジュールはハードです。ある意味、漫画家のときよりも〆切地獄かも。

 漫画の場合、「原稿は16枚描いたら終わり」みたいなゴールが明確だけど、絵だとそれがわかりません。正解がないゆえに、自分でゴールを決めないと終われないという葛藤がありますね。

 実は、少し危ない時期もありました。好きなことをやっているはずなのに、仕事のように「何日までに何枚のノルマを仕上げなきゃいけない」と自分を追い詰めてしまって……。仕事だと思って絵を描くと、また漫画の時と同じように食事や睡眠をおろそかにしかねない。

 その時から、ノルマと思い始めたら、一旦筆を置くようにしています。だから今大事にしているのは、絵を描くことを仕事とは思わないこと。「あくまでも好きなことをやっているんだ」と自分に言い聞かせていますね。

柴田亜美が本当に描きたかったもの

――#2では、漫画家を30年やってきたからこそ、画家として活きるものがあるというお話でした。具体的にどんな部分で、それを感じますか?

柴田 キャラクター、造形、創造性ですね。漫画を描いてきたからこそ、画家としての創作の幅が広がったのは確かです。

作品『南国奇譚 蛙とお玉杓子の親子と蝲蛄』(画像:柴田亜美さん提供)
『南国少年パプワくん』のキャラクター・タマちゃん ©Ami Shibata/SQUARE ENIX

 漫画家時代よりも、自分の好きなものを描けているかもしれません。日本の漫画やアニメのキャラクターって、どうしても目がキレイで“可愛い”や“萌え要素”のあるキャラがウケがちじゃないですか。

――みんなから愛されるキャラクターは好きじゃありませんか?