2011年1月、三浦大輔さんと初めて握手を交わし、「新人の松下です。キャッチャーやってます!」と挨拶した。厚みのある手がとても印象的だった。

 2011年から3年間の現役を経て、2014年からの3年間はブルペンキャッチャーとしてチームを支えた。多くの選手と関わった中でも三浦さんと過ごした日々は今でも強く記憶に残っている。今回はそんな元ブルペンキャッチャーから見た三浦さんを皆さんに知っていただきたい。

現役時代の三浦大輔と筆者・松下一郎

1球1球がとても、幸せな時間だった

 2015年2月、三浦さん24年目のシーズンへ向けてキャンプイン。私も初めて一軍のブルペンキャッチャーとして臨むキャンプだった。前年まで三浦さんの球を受けていた先輩のブルペンキャッチャーが退団されたため、「一郎、キャッチボール頼むわ」とありがたいことに相手に選んでもらった。

ADVERTISEMENT

 小学生の時、父に連れていってもらった甲子園球場。試合前の打撃練習の球を外野で受けている選手ではない人を見て、初めて裏方の存在を知った。プロ野球に関わる仕事をしている人を見て純粋に羨ましかった。「俺もあの仕事したいな」と子どもながらに思ったこと、三浦さんとのキャッチボールで、その記憶と光景が蘇った。

 三浦さんが投げるキャッチボールの球は左右対称なきれいな放物線を描き、糸を引くように私のミットへ入って来る。キャッチボールが大好きな私からすると1球1球がとても、幸せな時間だった。

 ちなみに、キャッチボールの終わりごろには塁間ほどの距離からカーブを投げる。手から離れた瞬間、時間が止まったような感覚になる。手の振りに対して異様にボールが遅いからだ。そして最後の1球はフォーク……これがただのフォークではない。無回転のナックルフォークで私をビビらせてくる。捕れない時もあるくらい揺れる“無回転ナックルフォーク”、そんなイタズラも随所にちりばめてくる。

 三浦さん曰く、ブルペンで球数を多く投げるのはシーズンを闘い抜く下半身作りが目的とのこと。時には300球近く投げることもあった。三浦さんの腰からお尻、そして太ももにかけての厚みを見れば、安定したピッチングの土台になっていることが理解できる。私は当時、ブルペンで受けた選手の球数と受けた感想を手帳に書いていた。コーチではないので指導はしないが、選手から聞かれた時に前回との違いや、選手の感覚と球質が合っているかを伝えるためだ。その感覚を何度も何度も合わせていく作業がキャンプのブルペンでは行われており、多くの球を受けているブルペンキャッチャーが一番わかるのだ。

 三浦さんも、投球終わりには「今日どうやった?」と感想を聞いてくれる。偉そうなことを言える立場ではないが、遠慮なく伝えさせてもらった。そんな私の感想も「やっぱり? そうよな」といつも受け入れてくれ、心の広い選手だと改めて思う瞬間でもあった。

 ブルペンでは、「大輔! 球が遅くて松下が手で捕れるって言ってるぞ」と周りからいじられる場面もあった。

 確かに130キロ前後と速くはなかったが、指からなかなか離れない球、低い軌道でベースギリギリ且つ低めに集められる技術は、三浦さんが20年以上かけて磨き上げてきた最高峰の技だ。キャッチングの構えも他の投手より更に低く構え、球を受けたところで止める。それが三浦さんの好み。少しでも気持ちを高めてもらい、収穫のある練習にするために常に気を張っていた。