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「廣岡大志はこのまま終わる男じゃない」絶品コロッケで有名な実家・廣岡精肉店に行ってみた

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/09/17

「岡本和真よりメンタルは強い」と評された

 階段をトントンと上がり、事務所に通されると、壁に掛けられていた背番号36のスワローズのユニフォームが真っ先に視界に飛び込んできた。巨人移籍前に店内で飾られていたユニフォームだという。

©服部健太郎

「かつてこの36番をつけていたブンブン丸・池山隆寛さんのように、三振を恐れることなくブンブン振りながら、大きく育っていけばいいなと。そんな期待を抱いていました。大志自身も『自分の一番の長所は思い切りのいいところ』と言ってましたしね」

 松尾さんは「私は素人なので技術的なことはとてもじゃないけど言えませんが……」と前置きした上で「目先の結果が欲しいという気持ちが強くなりすぎているのか、2年目くらいまでは感じられた思いきりのよさは、今はあまり感じられない。バッティングが小さくなったように感じてしまう」と語った。

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「ヤクルト時代から守備でも大事なところでタイムリーエラーをするなど、肝心な時にポカをすることが多かった。今年もそう。決して守備は下手じゃないはずなのに……。メンタルは強いはずやのになぁ……という思いがどうしても拭えないんです」

 智辯学園在学時の廣岡に何度か取材をしたことがあった。1学年上の岡本和真(現巨人)が3番、廣岡が4番を打っていた時期は、岡本敬遠、廣岡勝負というケースも少なくなかった。目の前で岡本先輩が勝負を避けられたときの心境を尋ねると、廣岡は次のように答えた。

「嫌じゃなかったですよ。『そうくるならこいや。返り討ちにしたる』みたいな感じで。自分との勝負を選択された悔しさとか『ここで打たなきゃ』みたいなプレッシャーよりも、チャンスでたくさん打席が回ってくるうれしさの方が勝ってました」

 なんてプロ向きのメンタルなんだろうと思った。高校時代の恩師である小坂将商監督も「廣岡は向こうっ気が強い。気持ちの部分は岡本よりも強い」と太鼓判を押していた。当時の廣岡の発言を知った松尾さんは「大志らしいなぁ」と納得顔で笑った。

 プロ7年目の今季の1軍出場は、この原稿を書いている時点で28試合。8月に5月以来となる1軍昇格を果たしたが、わずか1試合で登録抹消され、以降はファーム暮らし。78試合に出場した移籍1年目の昨季と比較すると、得られるチャンスは少なくなっている。

「巨人でもめちゃくちゃチャンスをもらってるのに……」と再び嘆きモードに入った松尾さんは、「大志の打席ではテレビに向かって『その球打たんかい!』『その球振るんかい!』『その甘い球、一発で仕留めんかい!』なんて叫んでばかり。もうね、イライラするんですよ。1軍でもらったチャンスを逃がし続けると、2軍でいくら打っても1軍に上がれない選手になってしまう……」

 もどかしそうな表情で語った後、松尾さんはこう続けた。

「勝手なこと言うてますけど、一番悩み、苦しんでいるのはあれだけチャンスをもらってものにできていない本人。私はこのまま終わる男じゃないと思っています。こんなんで終わるわけがない。次こそはチャンスをものにし、チームの期待に応えてくれる。そう信じています」

©服部健太郎

 廣岡が中学2年生の時、父・祥丘さんは突然この世を去った。急性心不全だった。

「自分が大志になにかしてやれることはないだろうか、という思いはずっとあります。オヤジが生きていたら大志のためにこういうことをしていたのではないかと思ったことはできる限り、やろうとしてきました」

 そう語った松尾さんに、「父親代わりと言っていいのでは?」と伝えたところ、「めっそうもない」と言いながら首を横に振り、こう結んだ。

「私はただの廣岡大志の大ファンです。自他ともに認める廣岡大志の大ファンなんです」

 自分史上1位のコロッケに舌鼓を打ち、松尾さんとの時間を反芻しながら帰宅の途に就いた。

 廣岡精肉店を半世紀にわたって支え続けた男の深みのある柔和な笑顔がいつまでも頭から離れなかった。

©服部健太郎

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