コロナワクチンを子どもに打たせるべきか、それとも打たせざるべきか。

 過去における感染症の流行では、「予防接種が原因で亡くなる人のほうが多い」という、反ワクチン派に有利なデータが現れたこともあった。意外かも知れないが、「ワクチンで子どもを殺すな!」とデモをする人たちにも一理あるのだ。この「不都合な真実」に、われわれはどう対応すべきか。

 世界的な人工知能学者にして「なぜ?の科学」の第一人者ジューディア・パールが、全米ベストセラー『因果推論の科学 「なぜ?」の問いにどう答えるか』のなかで、この不毛なワクチン論争へ終止符を打った。賛成派、反対派の両方が納得するという“最終結論”とは?

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ワクチン接種しなかったらどうなるか

 ワクチンを打つか打たないか論争について、歴史を遡って考えてみよう。たとえば、天然痘ワクチンがヨーロッパにはじめて導入されたときはどうだったか。当然のことながら、ワクチン接種をめぐって、人々のあいだで激しい議論が戦わされた。意外なことに、当時のデータでは、天然痘そのもので亡くなる人より、天然痘の予防接種が原因で亡くなる人の方が多いと分かっていた。それゆえ、この情報を根拠に、予防接種などやめるべきだと主張する人もいた。

 だが本当のところは、予防接種の効果によって天然痘が撲滅されつつあったため、天然痘で亡くなる人自体が激減していた。とはいえ、論争に決着をつけるには、予防接種をしなかったらどうなるかという、目の前の現実とは違う想像上の世界での問いに答えて、ワクチンの効果を証明する必要がある。

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 仮に子どもが100万人いたとしよう。そのうちの99パーセントがワクチンの接種を受け、残りの1パーセントが受けなかったとする。ワクチンを接種された子どもは、1パーセントの確率で抗原抗体反応を起こし、またそのうちの1パーセントが致命的なものになるとする。ただその代わりに、ワクチンの接種を受けると、天然痘にかかる確率はゼロになるとしよう。

 一方、ワクチンを接種されなかった子どもは、当然、抗原抗体反応を起こすことはないが、その代わり、50人に1人が天然痘にかかるとする。また、天然痘にかかった5人のうち1人は亡くなってしまうとしよう。

 これならワクチンを接種する方がいいのではないか。ワクチンを接種して抗原抗体反応が起きる確率は、ワクチンを接種せずに天然痘にかかる確率よりも低いからだ。しかも、抗原抗体反応の危険性は天然痘そのものよりもはるかに低い。