反ワクチン派の行動にも一理ある?
だが、データを数字で見てみるとどうなるか。ワクチンを接種される子どもは100万人の99パーセントだから、99万人ということになる。そのうち、抗原抗体反応は9900人に起き、亡くなってしまう子どもは99人いる。
一方、ワクチンを接種しない子どもは1万人だ。そのうち天然痘にかかる子どもは200人で、亡くなる子どもは40人である。
まとめると、ワクチンを接種して亡くなる子どもの数=99人の方が、ワクチンを接種せずに亡くなる子どもの数=40人より多いということになる。
「ワクチンで子どもを殺すな!」というプラカードを持ってデモ行進をする人たちも大勢いるが、その人たちの行動にも一定の根拠はあるわけだ。
確かに「実数」は、ワクチンが原因で亡くなる子どもの方が、天然痘が原因で亡くなる子どもより多くなっている。
賛成派、反対派の両方が納得する“最終結論”とは
だが、本当に彼らの行動が合理的であると言えるだろうか。ワクチン接種はやめるべきだろうか。それとも、ワクチンで救える命を重視すべきだろうか。
まず重要なことは、現在のワクチン接種率が99パーセントであるということだ。
そこで、ふたたび想像上の世界において問いを立ててみる。「ワクチン接種率がゼロまで下がったとしたらどうなるか」という問いだ。この場合は100万人のうち2万人が天然痘にかかり、4000人が命を落とすことになる。この想像上の世界と現実世界とを比較すると、ワクチン接種を完全にやめると、犠牲になる子どもが3861人増えるとわかる(4000人−139 人= 3861人)。つまり、ワクチン接種をやめるべきではないのである。
われわれは危機に直面すると、目の前にある現実のデータから答えを推定しがちだ。しかし、想像上の世界において問いを立てると、違う結論に達することもある。データは必ずしも万能ではない。そして、想像上の世界において問いを立てられるのは人間ならではの能力である。私たちはこの能力に感謝しなくてはいけない。そのおかげで、たくさんの命を救えるからだ。