取材班は実際に野犬を目撃したという男性に話を聞くことができた。
「8月23日の早朝6時くらいに幼稚園の前を通りがかったら、園庭に野犬がいたんです。お尻の部分から血を流している子鹿の近くに群がっていたのですが、私の気配を感じたのか黒と茶色の2匹の犬が走り去っていきました。数時間もすれば幼稚園児が登園しますから、怖いですよね……」
子鹿とはいえ体重も10kg以上あり、人間の子供とは比べ物にならないほど足も速い。その鹿を噛み殺してしまうほど野犬は凶暴なのだ。公園から出てくる野犬の動画を撮影した女性が恐怖の瞬間を打ち明ける。
「8月24日の18時50分頃に公園の横を車で通っていると、首輪のない茶色の犬2匹と黒色の犬1匹が歩いていました。野犬の噂を聞いてガリガリの姿を想像していたのですが、むしろふっくらして10kgくらいはありそうでした。車が並走しても堂々としていて逃げもせず、こちらを見る野犬の目が夜闇に光っていて、車の中でも怖さを感じました」
野犬が人間を襲う可能性は「捨て犬」次第か
なぜ急に野犬は公園に出没して子鹿を襲うようになったのか。野生動物問題にも詳しい動物研究家のパンク町田氏はこう推測する。
「野犬たちはおそらくこれまでも湿原で鹿を襲っていたのでしょう。鹿の生息数が増えて公園の草を食べるようになったことで、それを野犬が追って市街地に近いところまで出没するようになったのだと思います。犬も足は速いですが、鹿はさらに速いので、普通に走れば追いつかない。だからこそ足の遅い子鹿が狙われているのでしょう」
現在まで野犬が人間を襲う事件は発生していない。町田氏は「野犬は非常に警戒心が強く、人間を襲う可能性は低い」としたうえで、人間を襲うようになる“最悪”のシナリオも存在すると注意する。
「完全に野生の犬は人間を恐がるので近づく可能性は低いのですが、一番危ないのは人になれた野良犬が、鹿を襲っている群れに合流するケースです。人間への恐怖心が薄い犬が合流した場合、野犬たちが人間を恐れずに近づくようになり、人間を襲うようになることも考えられます。危ない時間帯はやはり日没直後と日の出前の薄暗い時間。これは犬にとって“狩り”の時間です。特に体の小さい子供が狙われやすい。もし野犬に出会ってしまったら、背を向けずにその場からゆっくり離れることが重要です」(同前)