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百合子のもつ「強さ」

『百花』©2022「百花」製作委員会

 現在の百合子の姿と並行して、映画は徐々に百合子と泉の過去に横たわる「わだかまり」の存在を明らかにしていく。

「百合子には自分が起こした行為に対する罪悪感があって、その痛みをずっと抱えているわけですね。でも、セリフにもあるように後悔はしていない。彼女はとても強い人で、だからこそシングルマザーとして泉を育てる決心をしたのだけれど、一方ではその愛を捨てて別の愛にすべてを捧げてしまおうとする衝動も持ち合わせている。それもまたある種の強さなんだろうと思います」

 泉とやりとりするシーンでは、この二人の微妙な心理的距離がつねに言い知れぬ緊迫感となって画面を支配している。

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「菅田くんはまさに息子くらいの年齢ですが、『大丈夫、俺が皆を見てるから』というふうに全体を包み込むような大きさをもっている人だなと思いました。一緒に仕事ができてよかったですね」

 『百花』の物語は、百合子と泉の過去と現在をとおして、人間の記憶とはなにかという本質的な問いを観る者に投げかける。

構成・文=佐野亨

週刊文春CINEMA!2022秋号 (文春ムック)

週刊文春

文藝春秋

2022年9月7日 発売

◆◆◆

 菅田将暉×原田美枝子W主演で送る、川村元気の長編監督デビュー作『百花』9月9日ロードショー! プロデューサー、脚本家として多くの大ヒット映画を製作するかたわら、小説家としても活躍する川村元気が、実体験をもとに書き上げた小説をみずから監督して映画化したヒューマンドラマ。いままさに父親になろうとしている青年と認知症と診断された母親の姿をとおして、二人の「愛と記憶」を描く。菅田将暉が息子・泉、原田美枝子が母・百合子を演じるほか、泉の妻役に長澤まさみ、百合子の過去にまつわる人物に永瀬正敏と実力派キャストが顔を揃える。

『百花』©2022「百花」製作委員会

◆Story:レコード会社に勤める泉(菅田将暉)は、妻・香織(長澤まさみ)の出産を控えて忙しい日々を送っていた。そんななか、ピアノ教室を営む母・百合子(原田美枝子)が認知症と診断され、泉は母を支えていこうとする。百合子が次々に記憶を失っていくなかで、泉は母子の関係を揺るがした過去のある出来事と向き合うことになる。

◆公式サイト:映画『百花』公式サイト