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「認知症の方は、目の前にいる人が誰なのかわからなくても…」超高齢化社会で浮かび上がる“人の「記憶」”

「認知症の方は、目の前にいる人が誰なのかわからなくても…」超高齢化社会で浮かび上がる“人の「記憶」”

『百花』原田美枝子さんインタビュー

source : 週刊文春出版部

genre : エンタメ, 読書, 芸能, 映画, 娯楽

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 黒澤明、深作欣二、神代辰巳ら日本映画史上の名監督たちに起用され、現在はNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」でも注目を集める原田美枝子さん。映画女優としての最新作『百花』では、菅田将暉演じる主人公・泉をシングルマザーとして育て、やがて認知症と診断される百合子役を演じている。

 ご家族も晩年、認知症を患ったという原田さん。そんな彼女のインタビューから見えてきた、超高齢化社会・現代日本の“人の「記憶」”とは……。発売中の「週刊文春シネマ」より、一部を抜粋して転載する。

原田美枝子さん ©文藝春秋/撮影=山元茂樹

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「最初のうちは監督の意図が理解できず、持久戦みたいになっていましたね」

 そう原田さんが語る「監督」とは、『悪人』(2010)、『君の名は。』(2016)など数々の大ヒット作を手がけたプロデューサーにして、小説家としても活躍する川村元気氏。今回、自身の同名小説を映画化した『百花』で満を持して長編監督デビューをはたした。

今作での演出の最大の特徴は、全編にわたってワンシーンワンカットによる長回し撮影を採用していることだ。

「ほとんどが3分から5分の長いショットですから、何度もリハーサルをするのですが、最初はなにをやろうとしているのかわからなかった。テイクを重ねるなかで、こういうふうに直してほしい、と言われればそれに向けて演技を変えていくけれど、川村監督はなにもおっしゃらないんです。それで途方に暮れてしまって……」

 しかし、そうして撮影が続いていくうちに、原田さんはやがて川村監督の真意に気づいたという。

「いわゆる芝居の奥を撮ろうとしているんだな、と。私たちは生身で、相手との掛け合い、カメラとの兼ね合いで芝居をつくっていくので、撮影中はいろんな神経をはたらかせているわけですが、川村さんはその向こう側にあるものを求めていたんだと思います。それがわかってからは、ただただ委ねようという気持ちに変わりました」