『クレア2022秋号』は、35名のマンガ好き著名人の投票で選ぶ「夜ふかしマンガ大賞」の発表号! その中から、ライターの井口啓子さんが選んだ「家族とは?部門――普通の家族なんてどこにもないから」の一部を紹介します。
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旧来的家族像へのささやかな抵抗
「家族を思って心和む人、胸の痛む人、それはちょうど半々だと私は考える」とは、日本のホームドラマの礎を築いた「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」の演出家である久世光彦の言葉。家族というものの難しさを言い得た名言です。
多くの人にとって家族とは、生まれた時すでにあったもので、それゆえ絶対になくてはならないものだと信じ、蔑ろにすることに罪悪感を抱く人は少なくありません。ここ10年ほどの間で、『海街diary』(吉田秋生/小学館)、『きのう何食べた?』(よしながふみ/講談社)、『水は海に向かって流れる』(田島列島/講談社)、『パパと親父のウチご飯』(豊田悠/新潮社)など、血縁や婚姻関係にとらわれない家族を描いた作品は枚挙にいとまがなく、これは旧来的家族像へのささやかな抵抗であり、多くの人が家族に息苦しさを感じている証なのかもしれません。
『違国日記』も、そんな新しい家族マンガ。世の中の“普通”に馴染めず、物語の世界に生きてきた槙生は、姉の遺児・朝と暮らすことになり、自分は彼女の母親のような愛は与えられないと言いつつ相手を尊重し、不器用ながらも理解しようとします。