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ヒグマの頭は絶対に撃ってはいけない理由

「撃つのであれば、前脚の付け根、つまり心臓か、ネック(首)ですね。頭は絶対に撃ってはいけません。見たらわかりますが、クマの頭部の骨って犬の頭と同じくらいしかなくて、正面から見える部分は、ほとんどが毛と肉だけ。形状も正面から見ると幅も狭く一番幅のあるところは眼孔部分です。鼻先から頭頂に向かって傾斜が少なく被弾しにくい。頭を撃つとすれば、側面、特に耳の後ろ以外にはない。だからそれ以外の場所は、30口径の弾で頭を狙っても、まず入っていかない。固い頭骨にはじかれるか、外側の肉を削ぐだけで致命傷にはならず、下手に撃った人は確実に殺されてしまうと思います」

 私は元国鉄の運転士だった芦別のハンター、岡田崇祚に聞いたこんな話を思い出した。

「オレの後輩が運転していた汽車がヒグマを轢いたことがあるんだ。死体を取り除いて再び発車したところ、ブレーキからギィーギィー異音がする。再び止めて調べてみると、ブレーキの鉄と鉄の部品の間に血まみれのクマのアバラ骨が挟まってた。それぐらいヒグマの骨っていうのは固いものなんだ」

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カラスも押し黙る「異様な雰囲気」

 山崎自身は過去に4回、ヒグマと遭遇したという。

「ほとんど20、30mの距離でしたが、クマを狙ってたんじゃなくて、偶発的に出くわしたケースばかりです。でも撃ったことなくて、いつも“にらめっこ”ですね。丸腰だったり、クマをやるために十分な威力の銃じゃなかったりと理由はいろいろありますが、何といっても中途半端に撃つのはリスクが大きすぎるから。クマの方も出会い頭ですから、できれば避けたい。お互いに引くチャンスを探っているようなところがありました」

 4回の遭遇の中で最も危険を感じたのは、6年前の11月、美唄岳の麓での出来事だ。薄暗い林の中を1人で歩いていた山崎は、そこだけ切り通しになっている場所に出た。ふと見ると幅15m、深さ10mぐらいの川の向うに大きなエゾジカのオスがいる。すかさずこれを撃つと、シカはコテっとひっくり返った。

「ただ間もなく日没というタイミングで、かなり大きな個体だったこともあり、その日は解体せずそのまま帰ったんです」

後編に続く/文中敬称略)

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