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 ところが多くのハンターは、そういう風には弾薬を選んでいないという。

「今の日本の銃刀法制度では、散弾銃を10年保有して初めて、ライフルを持つ資格を得られることになっています。だからハンターは10年経ったら勇んでライフルを買いにいくわけですが、どこでどんな獲物を狙うのかまではイメージできていない。だから弾薬に関しても、恐らく売り手に薦められるままに『308(ウィンチェスター)』を選ぶケースが多い。

 売り手も買い手も獲物に関しては漠然としかイメージできないまま、商品の特性というよりはブランドの銘柄で売ったり、買ったりしているわけです。僕なんかは無駄な買い物をさせたくないので、獲物のイメージが固まっていない相手に銃を売るのは躊躇しますがね……。

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 で、308がどういう薬莢かというと、いわば“NATO弾の亜種”で大量に生産されていて、ソコソコ当たる。だから500メートルぐらいまでの距離でシカとかを狙う分にはいいけど、相手がヒグマならどうか。僕に言わせれば、『そりゃ撃たない方がいいよ』というのが結論です」

ヒグマを撃つには、どのような薬莢を使うべきか

写真はイメージ ©iStock.com

 ではヒグマを撃つには、どのような薬莢を使うべきなのか。

「単純に比較しているわけではありませんが……」と断りながら、山崎が挙げたのは308と同じ30口径用のライフル弾として1906年にアメリカ陸軍が開発した「30-06(スプリングフィールド)」だ。この二つは単純なエネルギー量などの数値や性能はほぼ同等だが、薬莢の容積は30-06の方がやや大きい。

「30-06は命中精度もあまりよくなく、そのまま使う分には面白くも何ともない弾ですが、潜在的には308より高い性能を出せる余白がある。つまり、容積が大きい分、火薬を多く詰められるわけです。ちょっとした改造で性能がアップし、まるで別物になるところが面白い。とはいえヒグマならこの薬莢、と言っているわけではなく、ヒグマを撃つためには、どうすればいいかを考えたときに、こういう方法も選択肢としてありうる、と」

夕張市で発見されたハンターの遺体のそばに“クマの血痕”

 ヒグマが相手の場合、1発目で致命傷を与えられるか否かがハンターの命運を分ける。例えば昨年11月、夕張市で猟に出かけたハンターの遺体が発見されたが、遺体にはクマによるものと見られるひっかき傷や咬傷があり、近くには猟銃とともにクマの血痕があった。このハンターはヒグマに発砲し傷を負わせたものの、仕留めるには至らず、逆に反撃を受けた可能性が高い。

 オスの成獣であれば体重200キロ以上、ときに400キロに達することもある巨大な体躯でありながら、ヒグマの急所はピンポイントだ。