熱男はまだ燃え尽きていない。だから松田宣浩選手は決断をした。

 現役続行を目指し、ルーキーイヤーから17年間も在籍したホークス、そしてすっかり住み慣れた福岡に別れを告げることを決めて、ラスト“マッチ”に臨んだ。

チケット完売の超満員だったラスト“マッチ”

 10月1日のウエスタン・リーグ中日ドラゴンズ戦。この日は、松田選手の魅力が凝縮されていて、真骨頂ともいえる、そんな一日だった。

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 9月28日の退団会見の中で、10月1日のウエスタン・中日戦がホークスラスト“マッチ”になることが明かされると、チケットは争奪戦となった。タマスタ筑後のキャパは3113人。ファーム球場で言えば、そこそこの収容人数ではあるが、チームの顔だった松田選手のホークスラストを飾るには当然キャパオーバー必至。

 実は球団は、松田選手のため、そして応援してくれたファンのためにも、この日の2軍戦をPayPayドームで開催できないかと水面下で動いていた。

 ちょうど他のイベント等も予定されておらず、当日のドームの使用が可能だというところまで確認できたという。しかし、松田選手本人に提案すると「そこまでしてもらうのは申し訳ないし、中日ドラゴンズさんにも迷惑をかける」と言って筑後でのラスト“マッチ”を選んだのだという。

 会見の日、その後の記者の囲み取材まで終わると、松田選手は一言呟いた。「タマスタ史上最多の客入りにしてやるぞー」と。そして、松田選手の願い通り、退団試合はチケット完売の超満員だった。3113人の満員御礼に加えて、HAWKSベースボールパーク筑後は球場に入ることが出来なかったファンで溢れ返った。

 そもそも“退団試合”というのもそう多くあるものではないが、功労者に対する敬意が込められた一戦となった。2軍の舞台ながら「4番三塁」でスタメン出場。第1打席で安打を放つと、思わず塁上で「熱男~!」を披露した。

 本塁打ではなかったが、気持ちで放った一打に自然と「熱男」が込み上げてきたそうだ。球場のボルテージは最高だった。そして、後輩に出場機会を譲るため、自身の意思から3打席で退いた。

“粋な演出”に拍手喝采

 退く際にも心温まる珍しい光景があった。6回裏の第3打席を以て交代となった松田選手だが、7回表の守備に就くようにグラウンドへ登場。ファンの前に姿を現した上で、場内アナウンスで交代をコールされると、スタンドに手を振り、ホークスナインにも感謝を込めて一礼し、ベンチに下がった。場内は“粋な演出”に拍手喝采。“ホークス選手・松田宣浩”のプレーはここで幕を閉じたのだった。目頭が熱くなる瞬間だった。そして、その後も熱男らしくベンチでチームを鼓舞し続けた。

 試合後は盛大なセレモニーが行われ、新たなステージへと派手に送り出された。“引退”ではなく“退団”する選手に対する待遇としては異例中の異例ではないか。松田選手自身も「ここまでやって頂けるなんて」と驚いていたが、それくらいホークスにとって大切な存在だったということだ。

セレモニーで松田選手のこれまでの軌跡の映像がビジョンに映し出されると、みんなが松田選手との思い出に浸っていた ©上杉あずさ
多くのファン、チームメイト、スタッフに見守られたセレモニー ©上杉あずさ