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ソフトバンク・今宮健太の活躍を支える『YANASE』のバットは何がすごいのか

文春野球コラム ペナントレース2022

 あなたは「YANASE」という野球用品メーカーをご存知ですか?

 高級車じゃないですよ。もっと野球やホークスに詳しく、もっと深~く、もっともっともっと(!)野球大好きになりたい読者の皆様、ぜひ最後までご一読ください。

プロ野球ではとても珍しい「YANASE」のバット

 さかのぼること6ヶ月半、今年3月6日の日曜日。私が今年初めてホークス戦を観戦しに福岡PayPayドームを訪れた日のこと。その日は千葉ロッテマリーンズとのオープン戦で、ホークスの先発は和田毅投手。41歳とは思えない巧みな投球で1回表を無失点に抑え、いざホークスの攻撃。初回、2番打者として打席に入った今宮健太選手の手に握られていたバットがバックスクリーンのホークスビジョンに映し出された時、大観衆の中でおそらく唯一、私だけが声を上げてしまったのだ。

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 今宮選手が昨シーズンまでとは違って、「YANASE」のバットを手にしていたからだった。

「YANASE」の正式名称は「YANASE BAT COMPANY」。主に木製バットを製造しており、大学野球、社会人野球、独立リーグでは結構多く使用されている。私自身も福岡教育大の野球部時代に愛用していたのだが、プロ野球で使っている選手はとても珍しいのだ。

 今シーズンここまで3割近い打率を残し、好調を維持している今宮選手の活躍を支えているのはYANASEの木製バットであると、私は考えている。そこでプロ野球選手にとってバットとはどういった存在か、そしてYANASEのバットはどんなバットなのか。それらについて深掘りしていきたいと思う。

今宮健太

打撃成績に直結する「相棒」

 プロ野球選手にとって欠かせない商売道具の一つ「バット」。この世には一つとして同じバットなどなく、プロ野球選手はそれぞれの個性やスタイルにあったバットを使用している。

 これまでの数多くの名打者たちも、個性を持ったバットを使用してきた。木製バットに対する選手の感覚はとても繊細であり、「形、長さ、重さ、硬さ、重心の位置、色、グリップの太さ」など、細部に至るまでこだわりがある。中には、天候や湿度によってバットを変える選手までいるほどだ。

 昔のプロ野球選手は重いバットを使用していて、ホークスのレジェンドで通算567本塁打を放った門田博光選手は1キロを超えるバットを使っていたそうだ。現在は800グラム台が主流。軽量化されたのはキレのいい直球や多彩な変化球を投げるピッチャーが増えて、そこに対応するためだ。色にこだわるといえば、内川聖一選手がそうだった。ホークス時代は黒のバットを好んで使っていた。「締まって見えるでしょ。白のバットも木目が見えてすごくいいと思うんですけど、イメージとして黒の方がボールに当たった時の感じが強い気がするんです。イメージですけどね」と語っていたと聞いた。

 また、自分に合ったバットへの探求は終わることがなく、最初に使っていたバットと引退間際に使っているバット、また、年齢や体調、バッティングの調子に合わせて、重さや形が全く異なるケースも珍しくない。

 さらに、シーズン途中でもさらなるバッティングの向上を追い求めて、バットの形状や長さ、重さなどを変えるケースもある。その最たる例は、今年、プロ野球のシーズンホームラン記録を塗り替えようとしている、弱冠22歳のホームランキング・村上宗隆選手である。この最強スラッガーもまた、シーズン後半では前半よりもバットの長さを少し短くし、バットの重心を少しグリップ側に下げることで、バットコントロールをしやすくし、ミートに徹しやすいバットに変えた。すると、ホームラン数が飛躍的に増加し、日本プロ野球界の歴史を変えるまでに記録を伸ばしている。

 このように、バットは打者にとって打撃成績に直結する、まさに「相棒」なのである。

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