福岡で行われたCSファーストステージ初戦のソフトバンク対西武にパ・リーグファンの熱視線が注がれた10月8日。埼玉県所沢市のベルーナドームはひっそり静まり返るなか、一芸に秀でた選手を発掘しようと西武初の入団テストが実施された。
ダイヤの原石を見つけ出そうと、とりわけ鋭い視線を光らせていたのが2人の“元選手”だった。「ファーム・育成グループディレクター」の秋元宏作と、「球団本部ファーム・育成グループバイオメカニクス(一軍グループ兼務)兼企画室アライアンス戦略担当」の榎田大樹だ。
二軍バッテリーコーチとして高卒1年目の森友哉と地道なキャッチング練習を二人三脚で行った秋元は、今はファーム全体を俯瞰的に見ながら統括する立場にある。
かたや西武にやって来た2018年にリーグ優勝の立役者の一人となり、昨年限りで引退した榎田は、現役時代から興味を示していた動作解析やデータ活用を推進する役割を担っている。入団テストの日は三塁側ブルペンで捕手の後ろにトラックマンやタブレットなどポータブル機器を設置し、ネットとの狭いスペースに身を置きながら、自分の目で見た球質とトラックマンの数値を照らし合わせていた。
「立場上、選手に自分からアドバイスに行くことはしていません。でも、一軍の投手たちが自分から聞きに来てくれるようになってきました」
はにかんだ表情は、現在の充実ぶりを表していた。
プロ野球選手はユニフォームを脱いだ後、“裏方”に回る場合が少なくない。ライオンズ出身の2人を見ながら改めて思ったのは、中長期目線のチームづくりにおいて、“元選手”が背負う役割は極めて大きいということだった。
このままではライオンズの戦力になれない……
肌寒い秋を迎え、今年も各球団で多くの選手たちが現役生活にピリオドを打った。西武で言えば、内海哲也、十亀剣、武隈祥太の3投手が自らの意思で引退を決めた。
個人的に思い出深い選手が、2011年ドラフト1位で入団した十亀だ。
愛工大名電、日本大学、JR東日本を経て西武に1位指名されたが、本人も引退会見で口にしたように、11年間の成績を振り返ると必ずしも高い期待に応えられたわけではない。259試合に登板して53勝50敗、防御率3.98。スリークオーターとサイドスローの間のような独特な投球フォームから豪快に投げ込む姿が印象的だった一方、安定感に欠くところは否めなかった。
同じような投げ方から、メジャーリーグ最強右腕の一人である「マックス・シャーザーのようにならないか」と勝手に期待を膨らませながら取材をちょくちょくさせてもらった。
同時に、自分でもはっきりわからないことがあった。なぜ、これほど十亀という投手に惹かれるのだろうかということだ。
それが初めて明確になったのは、9月30日に行われた引退会見の映像を見ていたときだった。冒頭で引退を決めたタイミングについて聞かれた際の答えが、十亀をよく表していた。
「シーズン当初は一軍ですごしていて、その後、二軍に落ちて。ずっと上の試合を見ていて、このままでは僕はもうライオンズの戦力にはなれないなと感じてしまいました。僕は本当に器用な選手ではないですし、他人から学んで、考えて、そうやってやっと一軍のマウンドに立てていた選手だと思っています。そういうふうに考えながら11年過ごしてきた中で、ふと、このままではライオンズの戦力になれないなと思ってしまったことが引退を決めた理由です」
不器用で、実直。それが十亀に抱いていた印象だった。
球団が登録できる選手の「枠」が決められているのが、プロ野球という世界ならではの厳しさだ。チームの役に立てないなら、自ら身を引く。潔くもあり、組織全体を俯瞰する目が十亀らしかった。