願わくば、この記事が公開される10月12日はライオンズが大阪に乗り込み、クライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージを戦っていてほしかったのだけど……。

 9月半ばまで優勝争いをしていたかと思えば、その1カ月後には今季のライオンズの試合はもうなくなっている。月日の流れは早く、はかない。

 そして、シーズンが終われば、一気に「別れ」の季節となる。

ADVERTISEMENT

 ソフトバンクに敗れ、CSファーストステージ敗退が決まった9日、試合後すぐに辻発彦監督(63)の退任が発表された。

 シーズン最終盤には内海哲也(40)、十亀剣(34)、武隈祥太(32)の3投手の現役引退も決まっている。

 チームが強くなるためには新陳代謝は必要。そう理解はしつつ、改めて厳しい世界だと思わされる。

 十亀にいたっては、今季の開幕時は1軍にいたのだ。

 あの開幕戦で守備のミスがなく、ピンチを切り抜けていたら。良いスタートが切れていたら。そんな風にも考えてしまう。

 一方で、引退を決めた彼らの、チームを思う気持ちには尊敬の念を抱く。

 スポーツ紙などで大きく報じられる内海は仕方ないとして、十亀と武隈は、引退の決断を最後の最後まで、チームメートにも伏せていた。

 優勝争いをする仲間たちの邪魔をしたくない。そんな思いからだった。

普段は“ポーカーフェイス”の男

 そのことを知ったのは、9月30日。十亀の引退会見を約2時間後に控えたお昼ごろだ。

 この日、チームは練習日だった。練習の後、抑えの増田達至投手(34)にインタビューをさせてもらった。

「この後、十亀投手の引退会見がありますね」

 当然、知っていると思ってそんな話題を振ると、増田は言った。「僕らも十亀さんが引退するって、ほぼほぼ知らないんですよね」

 十亀の1学年下と近い距離にいる増田ですら、人づてに聞いたのだという。

 その徹底ぶりに驚かされた。

 幸運にも、彼らの「プロ意識」を知れたのは偶然だった。この増田へのインタビューの目的は、別なところにあったのだ。

増田達至 ©時事通信社

 聞きたかったのは、今季の投球のこと。そして、あの「涙」のことだ。

 9月19日。内海哲也の引退試合だった。

「隣にあるカーミニークフィールドで若い選手と一緒に頑張ってきました。いきの良い、将来楽しみな選手がたくさんいます。しかし、近くて遠いこの場所は簡単に来ることができる場所ではありません」

 ベルーナドームで行われたセレモニーで、内海はこれ以上ないくらい説得力のある引退の言葉を残した。最後はチームメート一人ひとりと握手をした。

 その時、顔をくしゃくしゃにして涙する増田の姿が大型ビジョンに映し出されたのだ。

 抑え投手として普段はポーカーフェイスを貫こうと意識している。「あまり表情を出さないようには意識しているんですけどね」

 ただ、あのときだけは「色々重なって出てきたというのが本音ですね」。

 一つは「内海さんと現役としてはもう一緒に野球ができないんだ」という寂しさ。そして、やはり一番は「その日勝って、内海さんにボールを渡したい気持ちが強かった」

 内海が先発し、先頭打者をセカンドゴロに抑えた。ただ、その後チームはリードを許した。なんとか9回に追いつき、増田の出番は同点の10回からだった。

 7月、新型コロナに感染した後は、思うように抑えられていなかった。自分では「思っているより感覚は良かった」と言うが、ブルペン捕手らからは「(良い時と)差がある」と言われた。

 この日も、浅村に勝ち越し弾を許した。内海にウイニングボールを、という試合前の思いはかなわず、敗戦投手になってしまった。そんな悔しさもあった。