今日、10月8日、クライマックスシリーズが開幕する。バファローズへの挑戦権をかけて、ライオンズは敵地でホークスと相対する。

 思えば、このCSにライオンズは泣かされ続けてきた。辻発彦監督が就任した2017年以降、2位からの進出が1度、リーグ優勝を果たしての進出が2度あったが、いずれも敗退。日本シリーズに駒を進めることができていない。

 辻監督が「3回CSを経験して、2回はソフトバンクさんに負けましたけど、普段通りやられて負けたなという感じでした」と言うように、ホークスにはいつも通りの野球をやられたのに対して、ライオンズはそれまでの「普通」をさせてもらえなかった。負けられない緊張感と焦りからか、牙は削がれ、見せ場を作ることができなかった。

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 だからこそ、ソフトバンクにリベンジを果たす戦いに臨む前に、辻監督にどうしても直接聞きたいことがあった。

辻発彦監督 ©時事通信社

 2018年、ライオンズは圧倒的な強さでリーグ優勝を果たしたものの、CSファイナルステージで対戦したホークスを相手に、アドバンテージを除いて1勝4敗と完敗だった。ライオンズファンの心に深く刻まれているのは、試合そのものよりも、負けてあいさつに立った辻監督の涙だ。マイクの前に立ったものの、言葉が出ない。頭を抱えて、泣いた。

「あぁ(笑)。あの時はね、思いもよらぬ涙で」。照れ笑いを浮かべた指揮官は、あの瞬間を思い出しながらこう語る。

「映像を見てるとね。シーズンを振り返って、選手たちが本当に頑張ってくれた姿、一生懸命さが伝わってくる映像を見ているとね、悔しいなって思いがこみ上げてきてね。ただ『この一緒に戦ってきた選手たちを日本シリーズに連れて行きたかった』という思いの涙でしたね。僕が悔しいということではなくて、選手たちを連れていけなかった、一緒に行けなかったというのが一番つらかったですね。優勝しましたからね。優勝してから下剋上されましたから」

 スワローズ時代も含めて、プレーヤーとして10度日本シリーズに出場した辻監督も、現役時代は日本シリーズを逃して涙したことなどなかったと言う。だから監督自身もあの場で涙したことには驚いた。

 選手に立たせたかった日本シリーズの舞台。感じてほしかったあの空気。そこに立たなければ分かりえない感情の昂ぶり。

 かつて幼いころに野球の楽しさを覚え、練習に明け暮れた球児が、選ばれてプロの世界に入り、一軍へ行き、1年間戦い抜いて、さらに勝ち上がった者のみが立てる場所。日本シリーズ。野球選手として最高の舞台を、経験させてあげたかった。

 突如訪れたシーズンの終わりに、言葉にならない思いが込み上げた。選手たちに見せた初めての涙だった。

監督として見せる「本来の僕の姿」

 チームを見ていると、辻監督と選手とに、昔見たような指導者と選手のような隔たりがないことに気付く人も多いだろう。そこに鬼軍曹のような監督の姿はない。選手と楽しげに話し、にこやかにグラウンドに立つ。

「現役の時はまずそんなことなかったような気がしますけどね。でも、今が本来の僕の姿なんですよ。昔は本来の僕じゃなかったんです(笑)。楽しいことが好きですし、ひょうきんですし、みんなでわーわーやりたいタイプなんです」

 あの昔ながらの厳しさがあった時代のチームでは作りえなかった雰囲気が、辻監督のおおらかさと時代に即した形で、今のチームには醸成されている。野球はミスをするスポーツだ。だから「常に明るくやりたい」のだ。

「今の子は怒らないで諭して説明しても涙ぐんだりとか、ナイーブな選手が多くて難しいところもあるんですけどね」とそのギャップには戸惑いを感じないこともないが、監督本来の明るい姿は、チームに安定をもたらしている。

 そんな監督に「監督業」について問うと、「僕の仕事は、見てあげることが一番大事だと思っています。プラスちょっかいを出すことです」と笑顔交じりで返ってきた。

「何かあったときに声をかけられるということは期待されているということ。怒られることもそうです。期待していないような選手にコンコンと説教する人もいないでしょうし。こうなってほしいと促してくれてるんだなって、僕も現役時代は思ってましたから。声をかけてあげること、見てあげることが一番の仕事かなと思っています」

 チームを預かる監督としては、小言を言いたくなることもあるだろう。言わずと知れた名プレーヤーだった方だ、もっとこうしたらいいのにと思うこともあるだろう。

 それでもそこは各分野のコーチに任せ、監督は気付きを促すにとどめる。当然、コーチへの信頼なしにできることではない。そんなコーチ陣との絆の一端を感じるシーンがあった。