「もう存在自体がミラクルですよね」
見開きのもう1ページは何かっていうと杉谷選手の「お立ち台リベンジ」、正真正銘のお立ち台です。無安打なのにお立ち台に呼ばれた5月15日ソフトバンク戦(「なんでアイツがと思っているでしょう。これから頑張ります」と挨拶)のリベンジです。この巨人戦は新庄ビッグボスがインスタライブでオーダーを決めたときだったんですよね。で、残りひと枠『誰がいいですかー?』ってなったときに、ケンシケンシって声が集まり、見事スタメンを射止めたと思ったら今季初打点のお立ち台です。もう存在自体がミラクルですよね。だから1ページはほとんど杉谷選手にしてあるんです」
――スコアは7対2、14安打で打ち勝った試合でもある。
「ある意味、ビッグボスマジックの華やかな部分が目立ちつつ、根本君の地元凱旋を支えたリリーフ陣のしっかり感も見逃せないという、理想的な試合です」
――リリーフ陣を見てるところがいいですね。フツーは7点取ったほうに目が行って、リリーフ陣のことは忘れがちです。
「みんな頼りになる先輩っていうか、よく考えたら北山教授なんてルーキーなんですけど、根本君に対してお兄さん感があってよかったんです。教授は中田翔を空振り三振に仕留めます」
――交流戦はヤクルト戦の次が巨人戦だから、色々あった北山ですよね。
「そうですそうです。神宮から札幌ドームへ帰って、第1戦は上沢直之が完投勝ちして『(神宮の)あの試合を見て何も思わないようじゃ男じゃないなと思っていました』と言った翌々日の試合です。だからストーリーもすごくいいんですよね」
――あ、思い出した。前々日の試合は万波中正が後逸エラーしたんだ。それをみんなでカバーして勝った流れが、この試合の根本をみんなで支える感じにつながってるんだ。『キャプテン』の墨谷二中なんだよね。みんな何か足りなくて完璧な選手はいないけど、お互いがお互いをカバーし合うっていうね。今年のチームは大谷翔平はいないんだよね。ズバ抜けた存在がいない。上沢直之、松本剛もすごかったけど、ケガで戦列を離れた。中田翔みたいなおさまりのいい主砲もいない。
「そうか、墨谷二中ですよね。みんなでやる野球。それがピタッとハマって痛快なゲームは見開きになってます」
ずっとビッグボスがやってきた「準備野球」が覚醒
――なるほど、わかってきました。次のゲームはどれでしょう?
「次は6月11日中日戦です。2ランスクイズがハマった試合です」
――中日戦は3タテしてますね。最初の試合でメンバー表交換のとき、ビッグボスが変なメガネかけて、立浪監督に怒られるんじゃないかとヒヤヒヤしたというシリーズ。
「そうですそうです、ドンキで買ったやつです。その第2戦です。5回に執念先輩(今川優馬)のタイムリー2ベース、石川亮さんの2ストライクからの2ランスクイズが炸裂しました。ここはずっとビッグボスがやってきた『準備野球』が覚醒。私、覚醒って書いてあります。もう、みんなが何が来るかっていう準備ができている試合でした。打つにしても守るにしても、今までやってきたこと、準備してきたことをただやるだけですってみんな言ってた試合。まさに今シーズンを象徴するような準備、準備に勝るものはないっていうのが示せた試合です。試合後、新庄ビッグボスが『完璧です。キャンプからやってきたことが全部一発で出せた試合です』ってコメントしてて、手帳にはそれが赤枠で書いてあります」
――10対0の大勝ですね。
「はい、先制、中押し、ダメ押しとすべてうまく行ったんです。あのとき野村(佑希)君も16打席ぶりのヒットで、そのあと5打数4安打の固め打ちをしたんです。私、試合前、GAORAの練習中継見てたんですけど、野村君が金子誠コーチのとこに行ってやけに熱心に話聞いてるなと思ってたんです。で、そうしたらヒットが出た野村君のコメントが『金子コーチありがとうございます。教えていただいたおかげで迷いが晴れました』だったんです。この日は選手がみんなイキのいいコメントを発してます」
――あと言わせてもらえるなら再現性ですよ。準備したことができた。うまくやれた。それは素晴らしいんだけど、次は再現性。
「再現性」
――来年からは何が問われるかというと「いつでもできる」ですよね。必要なときにいつでもできる。これは力のストックないと無理だからさ。うちは墨谷二中だからまだ力はない。でも、頑張っていっぺんうまく行った。これ大事だよね。これを覚えとかないとね。
「あー、墨谷二中っぽさで言うと7月24日ロッテ戦も見開きページです。札幌ドーム。コロナでボスもいない。みんないない。山田(勝彦)代行も倒れちゃった。木田(優夫)さんになったけれどもずっと勝てず、やっとみんなで木田代行に初勝利を届けられた試合です。3戦連続で4番に入った今川君が2日連続アーチです」
――あのときは今川が頑張るしかなかったんだけど、「4番の差で負ける」悔しさも味わったんだよ。
「前日は打ったんだけど空砲に終わってるんですね。泥沼の6連敗でした。で、この日はプロ初のグラスラを叩き込むんですよ。今川君、インスタで『もう、負けるのはいやだ』って言ってて、初回初打席、その悔しさをぶつけるようなホームランでした。墨谷二中のみんなが負けるのいやだって思ってて、それを乗せて運んだホームランです」
――あれは本当に震えたねー。
「それからこの試合は佐藤龍世君の神走塁。思い切りよくベース回って、迷いなくセカンドからホームインした走塁です。次の塁を狙うってことをずっとボスが言ってて、それを佐藤君が体現した。これはボスがコロナでいなくてもやれたところが泣けるんです。言われてきたことがチームに息づいてて、次の塁を狙う準備ができてた。5対4の辛勝でした。満塁弾だけじゃなく、1つの走塁が勝ちを呼び寄せました。木田さんもホッとしてて、勝ってみんなホントに嬉しそうでした」
――あぁ、思い出してもジーンと来ますね。なるほど、その3つが手帳から振り返る「2022、あの試合」ベスト3ですね。
「ごめんなさい、同率でもう1つだけいいですか。オールスター明け最初の試合なんですけど、7月29日の楽天戦、楽天生命パークです。ポンセが2勝目、宮西(尚生)さんが2か月ぶりに登板した試合でした。何がすごかったって中島卓也さんです。打って守って走って、2対1というロースコアのゲームを勝利に導いた。やっぱり卓ちゃんって感じでした。シーズン終盤は外野を守ったり、戸惑いながらチャレンジしてましたね。むしろ若返ってたぐらいで、プレーヤーとして存在感ありました」
――あー、中島卓也はポンセのノーヒットノーランの超美技もあったよね。僕は思うんだけどね、中島卓也みたいな選手こそ「再現性の高い選手」なんだよ。あの超美技だって来年、条件さえ重なれば同じことがもういっぺんやれる。それがプロだよね。もう今は身体の強さは上川畑大悟にかなわないかもしれないけど、同じことをもういっぺんやれる準備をしている。
「ファイターズはこのオフの練習、サボれませんね。準備不足の選手は容赦なく置いていかれますね。来年は横一線ってわけにはいきませんよ」
――ホントだね。エスコンフィールドに歴史を刻むんだからね。今年撒いた種がどう花を咲かせ、実を結ぶか、もう今からワクワクするね。今から待ち遠しいね。
◆ ◆ ◆
※「文春野球コラム 日本シリーズ2022」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/57458 でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。