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「あきらめないで頑張った剛を見てきたから…」日本ハム・松本剛の母、2022年の一喜一憂

文春野球コラム 日本シリーズ2022

2022/10/27
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親は手を貸すこともできず、ただ祈るしかない

 7月6日、オールスターファン投票でパ・リーグ外野手の3人目に選ばれた。柳田悠岐、吉田正尚の次に松本剛の名前が入った!

 Twitterで第一報が入るやいなやメールを送る。「おめでとうございます!」。すると松本さんは「え? 決まったのかな」。お母さんは友人の野球バカ(僕)から第一報を受け取ったのだ。

 その2日後、今井豊蔵さんが書いた文春野球コラムが松本剛、近藤健介ら93世代について書いたものだった。松本さんにも読んでもらおうとリンクをメールで送った4時間後、返信があった。

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「涙が流れてきます。我が息子ながら本当に頑張っている姿をずーっと見ていたのでいつか報われる日がと願いながらも諦めそうになる私がいたりして、でも周りの人たちの応援があり親が諦めてどーする? 私が一番の応援団長なのにと自分自身に喝を入れ、とにかく応援してくださる方々にお礼の一言でもと思い、札幌ドームへ行った時は剛のユニフォーム着てる人を見つけてはお礼を言い、今後もよろしくお願いしますと。私にできることはやらねばならない。行けるとき行けるところは直に応援する!とあちこちに通っています。ありがたい記事です。今井さんにもお礼を言いたいです。ありがとうございます」

 僕も泣いた。僕にはマツゴーと同じ93年生まれの息子がいる。野球ではなくサッカーだしプロを目指すような選手ではなかったけど、多くの野球少年やサッカー少年と同じ夢の出発点に立ったことがある。ほとんどの子供は中学、高校と成長するにつれて夢を手放し、別の夢を追う。だけどマツゴーの夢は近づくほどにどんどん大きくなって、なかなかつかめない。もう後戻りもできない。親は手を貸すこともできず、ただ祈るしかない。

一時は絶望かと思われた首位打者に向けて打席を重ねていく

 コロナが猛威をふるった7月中旬、ファイターズはBIGBOSSをはじめ首脳陣、加藤ら主力選手が感染して戦列を離れる。僕も「剛くんが感染しないよう祈ります」なんてメールしていたが、敵はコロナではなかった。

 松本剛は7月19日の京セラドームで自打球を当てて途中退場。診断の結果、ヒザの骨折が判明した。オールスターは辞退。目下ダントツの首位打者だが、規定打席に達しなければタイトルは水の泡だ。

 それから僕は松本さんへのメッセージを止めた。「残念です」「早く復帰できますように」では軽い。無理に明るくふるまうのも違うなあ。少し前、ファイターズのWEBサイトで背番号12、松本剛のビジターユニを注文していたが、このタイミングで「ユニフォーム買っちゃいましたあ」なんて言えない。剛くんのケガは自分のせいじゃないか。勝手に自責の念にかられた。

 ところが、案外早く8月の頭には「松本剛、練習再開」のニュースが伝わってくる。8月後半には復帰するらしいと知って、僕はようやくメールすることができた。

「背番号12のビジターユニが届きました。剛くんの復帰を心待ちにしています!」

 マツゴーは8月16日、28日ぶりの復帰を果たし、一時は絶望かと思われた首位打者に向けて打席を重ねていく。膝は万全ではないのでDH限定の出場だ。8月31日、ベルーナドームで観戦した西武戦では2安打3打点。単打はいいが、二塁打以上は見ていて怖い。「そこで止まって!」と叫びたくなった。

「『リアル野球BAN』に出てほしい」

 そして、9月28日の札幌ドーム最終戦、マツゴーは今シーズン443度目の打席に立ち、規定打席に到達する。10月2日にパ・リーグは全日程を終了。打率.347の松本剛が首位打者に輝いた。

 嬉しいよりもほっとした気分だったのは、すっかりお母さんの気持ちにシンクロしていたからだろうか。松本さんに今なら聞いてもいいかなとメールした。

「剛くんがケガした時のお気持ちはどうでしたか?」
「剛がめちゃ悔しがってたから私たちが落ち込んでる場合ではなかったですね!」

 聞けばマツゴーは11月5日のファイターズ対侍ジャパン戦に向けて調整中だという。

 僕も松本さんも東京ドームで観戦予定だ。

「剛くん、忙しいオフになりそうですか?」
「それほどでもないでしょう。でも、あれは出てほしいんですよ」
「なんですか?」
「タカさんの『リアル野球BAN』」

 帝京高校OBでもあるマツゴーはこれまで番組出演のオファーを断っていたそうだ。「自分はまだそれほどの選手じゃない」と。今年は胸を張って出演できるはずだ。オファーがあったかどうかは知らないけど。全国ネットの特番、遠くの親戚にも首位打者・松本剛の姿を見てもらえるだろう。いいお正月になりそうだ。

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