先人たちが成し遂げてきた立派な仕事の多くは、どこにたどり着くかもわからない海を羅針盤もなく、ただ目標だけは明確に掲げて船を走らせた結果得られてきたものだ。1.5倍速や倍速で見つけられる結論だけを見据えて、非正規社員を使い倒して行う仕事だけを繰り返しているのでは、仕事において決して大きな成長や成功を期待することはできない。
最近は一流大企業に入社できればそこがゴールだと考える人が増えてきている。それはそうかもしれない。塾のランキングに始まり、中学、高校、大学、会社のランキングを気にして、そのランキングの一つに加わることだけを目的に生きてきた人にとっては、一流大企業に入ったことの勲章さえ身に着けることができれば、人生の成功者と呼ばれるからだ。そのために必要で有効なツールが倍速なのだ。
「不動産投資だけで人生左ウチワ」本はなぜ売れる?
だが、人生はそんなに甘いものではない。人生には様々な間がある。必ずしも直線上に人生は展開したりはしない。明るく見えた道に突然、暗雲が立ち込め、激しい雨が道を打つことだってある。見えていたはずの結論も、時代の進行とともに古ぼけたつまらないものに成り果てていることもある。
「こうやったら人生うまくいく」「運をすべて自分の手にするには」「不動産投資をするだけで人生左ウチワ」などといった書籍、今でもよく売れているのだそうだ。だがこうした書籍に記されている「倍速の結論」は、おそらく読者が望んでいる人生の成功にたどり着くことがない、蜃気楼のようなものである。
仕事も人生も小さな成功や失敗を繰り返しながら、熟慮し、判断し、いろいろな間があり、ペーソスがあり、笑いや涙が混じりあいながら進んでいくものだ。そうした意味では人生はコンテンツではなく、立派な作品なのである。最期に振り返った時に、自分の人生は、消費されるだけのコンテンツではなく、なんと素敵な作品だったのだろう、と思えるようにしたいものだ。