日本人の住宅選びにバイアスをかけてしまっている概念に、自分の家が「値上がり」するか「値下がり」するかという強烈な固定概念がある。現状の日本においては、もうそろそろ日本人はこの「家=資産」という考え方と決別したほうが良いと思うのだが、相変わらず週刊誌で「値上がりするマンション、値下がりするマンション」といった特集を組むと売れ行きが良いのだそうだ。
私は業として多くの不動産投資のお手伝いもしてきたが、「投資」としての不動産の見方と、「住む」という「効用」としての不動産の見方は全く異なるものだと思っている。
いつも言うことだが、不動産はもう儲からないから買うべきではない、とか絶対にこれからは買い、だとか不動産を全体論で述べることに私自身興味がない。なぜなら投資の世界とは「買って、運用して、売ってなんぼ」が基本だからだ。このことと住宅を「買って住む」あるいは「借りて住む」ということとは本来概念が全く異なっている。
自宅で儲けようと考える人
そもそもこの世界で本当に真剣に儲けようというのならば、投資する対象が自宅ではどうにも身動きができない。動きの速い投資マネーと丁々発止のやりとりをする度胸と才覚があれば、不動産投資は大変スリリングで楽しく、巨額の利益を稼ぐことも可能だ。しかし、これからの日本でたいした元手もなく、金融機関からの借金に頼りながら、ちまちましたアパート投資をして「儲かる」なんて商売はあまり期待しないほうが良い。投資の世界、否、資本主義の世界ではどの分野でもそうなのだが、結局湯水のごとくカネがあるメジャーのほうが圧倒的に強い。素人が参加できる場は少なく、逆に投資には常に大きなリスクを背負っていることを肝に銘じるべきである。
そうであるのに自宅で儲けようと考える人がいまだに多いことには正直驚かされる。最近、不動産業者の宣伝などで、「あなたの自宅はこんなに値上がりしている」などと自宅投資を煽るかのような内容のものが目につくが、あまり惑わされないほうがよい。実際リーマンショックのあった2008年以降に住宅を購入したうちの一部の人たちにとっては、たしかに買った住宅の価格が値上がりしている。だが冷静にマーケットを分析すると、住宅価格が急激に値上がりしたここ数年の動きは建設費の上昇で値上がりした新築マンションと、それにつられて値上がりした一部の中古マンションによってかなり脚色されたマーケットになっていることがわかる。