6月6日の講演で日本銀行の黒田東彦総裁が発言した「家計の値上げ許容度も高まってきている」という発言は多くのメディアで取り上げられ、国民生活の痛みを全く理解していない発言として炎上、2日後に黒田総裁は自らの発言を陳謝、撤回する騒ぎとなった。
2013年から始まった「アベノミクス」による金融緩和
ただ我が国経済の現状を見るに、欧米各国に追随して利上げすることは日本経済を崩壊に導く行為に等しいものになっている。2013年から始まったいわゆるアベノミクスによる金融緩和は大量のマネーを市場に供給することに成功した。ところでマネーを供給するというが、マネーは金融機関というパイプを通じて世の中に供給される。
ひとつは融資である。本来金融緩和は、金融機関を通じて法人個人に融資が活発に行われることによって、設備投資や運転資金に回り、経済が活性化することを目的としている。だが現状の日本では、アメリカのGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)に代表されるような成長産業が少なく、スタートアップやベンチャー企業の著しい台頭もみられない。マーケットは一部の大企業によって独占され、少子高齢化で縮んでいくパイを分け合っている。つまり資金需要がないのである。
じゃぶじゃぶになったマネーが向かう先は投資用資金の融通である。投資として代表的な対象は株式、債券と不動産である。金融緩和の効果はこの2つのセグメントには絶大な効果を発揮した。株式は日経平均で一時3万円を超え、東京23区内の新築マンションの平均価格は7000万円台と、一般庶民が買える価格帯を大幅に上回ることになった。都内のみならず、大阪や名古屋、地方四市(札幌、仙台、広島、福岡)にも投資資金がまんべんなく供給された結果、超高層オフィスやタワマンが林立した。
年収は期待したほどの上昇を見せず…
一見すると株式や不動産の価格が上昇すると世の中の景気が良くなったようにみえる。日銀はETF(上場投資信託)やJ-REIT(不動産投資信託)を自らの資金で買い支え、宴を演出してきた。
本来であれば、黒田総裁が連呼するように、好景気によって企業業績が向上しその結果として従業員の給料が上がる、生活が豊かになるというのがアベノミクスの目論見だった。だが、日本人の平均年収は期待したほどの上昇を見せず、2020年で433万円(中央値)、ピークだった95年当時(550万円)よりも20%以上低い数値に低迷したままでいる。
株価は回復、不動産も銀座の山野楽器前の公示価格は平成バブル時の価格の1.6倍にまで値上がりしたのに、庶民の財布は一向に豊かになっていないのが我が国の実態なのだ。