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家選びと不動産投資がごっちゃになっている、日本人の残念な“不動産信仰”

2022/07/26
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 ちなみにマーケットを演出している張本人は、(1)都市部の不動産価格高騰に欲がでた国内投資家や転売目的の不動産業者、(2)同じ理由で参戦している地方を含む富裕層、(3)日本の低金利、円安につられて日本の不動産を買いまくる海外投資マネー、(4)そろそろ相続が心配になりその対策として現金をマンションに代替させる高齢富裕層たちだ。メディアはパワーカップルが買い手の主体であるかのように報道するが、現在都内の8000万円を超えるような新築マンションを買えるのは、夫婦とも一流上場企業に勤め世帯年収で1500万円以上という条件を満たす世帯に限られる。

 つまり戦後の経済成長期から日本経済が絶頂を迎える平成バブル期までのように、どうしても家が欲しいという膨大な需要によって価格が上がっているわけではないのだ。

住んでいる自宅が値上がりしても…

 投資は「買って、運用して、売って」はじめて結果の出る行為だ。あたりまえだが「値上がり」は、実際に売ってこそはじめて実現する利益である。今値上がりしている状況にほくそ笑んでいたとしても、所詮想定する利益は「含み益」、ただの「含み」にすぎない。だから投資をしていると胸を張るのならば、偶然住んでいる自宅の値段が上がっている、つまり運用して得ている利益(運用益)はないが、今売れば幸運にも多額の利益(売却益)が得られるというのなら、早く売ってしまうことが吉ということになるのだ。だが自宅での投資では、自分の住処をまた別の場所に確保しなければならない。自分自身の仕事や家族の都合もいろいろあるだろう。すぐの決断は難しいかもしれない。でもそんなことで売却を躊躇していたら、動きの速い不動産投資マーケットの中で大きな利益を得ることはできない。

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 多少時間がかかっても買い替えれば利益が取れるのでは、と一般人は安易に考えてしまうが、買い替える新しい家については、すでに「値上がり」している家を買わなければならないことを意味する。かつて自分が投資をした家と同じ金額では、同条件で新たな家を買うことはできない。すでにエリア全体が値上がりしている可能性が高いからだ。つまり自宅として住むためには、今までと同等の金額で住み心地を確保することはできないということだ。

 次に買う家は当然相場に合わせて高い家を買わざるを得ない。これでは利益を次の値上がり後の家につぎ込んでいるだけで、本当の意味での利益実現にはなっていないことになる。そしてこのゲームは不動産が期待どおりに値上がりし続ける限りにおいては成立するが、一旦下落に転じると含み損が発生し、これまで積み上げてきた利益を一気に失うリスクもでてくる。市況が高い時は一旦利益を出して、下がる時を待ち、下がり切ったと思われるところで再び投資する、これが投資の極意だ。普通の家庭ではなかなか難しい行動である。