若者の貧困問題が世間に広く知られるようになってから、私の元にも「どうして若者は金がないのか?」といった質問やメディア取材がよくくるようになった。
特に中年以降、50代以上の人たちと話をしていると、若者に金がないのは単純に贅沢をしているせいだ、あるいは努力が足りないからだと、本気で思っていたりする。とある大学の創立者の御子息であり、現在もその大学の役職者を務めている60代男性から仕事の懇親会で「我々が若い頃には苦労をたくさんしてきたが、今の若者は苦労をしないからいけないのだ」と説教をされたとき、できることならこいつの歯を全部抜いてやりたいと思った。
「貧乏な家に生まれたのなら、どうして親に楽をさせてやるために良い企業に入って稼ごうと思わないのか」とニヤついた顔でネチネチと絡んでくるあの御子息が案の定、世間知らずで偉そうに振る舞うがゆえに職場で全く人望がないらしいことはさておき、自分が身を置いている恵まれた環境を客観視できずに「貧困=自己責任」といった固定観念を持つ人々はそう少なくない。
バブル時代から100万円以上も平均年収が減少
30年前と比べると、現在、日本の平均給与は100万円以上も下がっている。貧困層は貧困のまま、かつては中間層と呼ばれていた人々まで「貧困化」してしまった。「失われた30年」では個人が貧しくなったのではなく、国自体が貧しくなっているのだから、若者が努力しようがしまいが、個人の努力レベルでこの社会的構造を変えることは不可能なはずだ。
終身雇用制度が機能していた頃であれば、年齢が上がるとともに年収が右肩上がりに増えるのが一般的であったものの、安全神話が崩れ去った今はそうではない。本来なら結婚や子育てなどで経済的な負担が大きくなる30代になってもさほど賃金は上がらず、不安定な雇用によって将来への不安を抱える若者たちが結婚や出産に踏み切れない気持ちは、同じ理由で子供がいない私にも痛いほどわかる。