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 それからはインド、ネパール、中国、ウイグル自治区の人、何年か前はウクライナの人も働いていました。たくさん注文がくるわけじゃないけど、世代や国籍が違う人同士で来ても、何時に来ても、何か食べたいものがあるって、いいでしょう?

取材当日、キッチンに入っていたスタッフのおすすめ「ネパールチキンマサラ」をいただいた

――そうですね。まだファミレスがどこにでもある時代ではなかったと思うのですが、24時間、年中無休にしたのも最初からですか?

 そうですよ。当時、都内でもファミレスはほとんどなくて、24時間営業は大宮ではうちが初めてだったんじゃないかな。最初にここの物件を見た時、周辺を歩いたら、すぐそばにスーパーやデパート、さらにキャバレーもあった。あと学生も多くて若い人がとても多かったんです。

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 それなら、24時間、誰か寄ってくれるだろうと。デパートに買い物に来るお客さんやそこで働く人たちがモーニングやランチを頼んでくれるだろうし、キャバレーがあるなら夕方の出勤前の同伴や閉店後の夜、遅い時間に寄ってくれるかもしれない。

24時間営業を続ける「伯爵邸」の入り口

 当時の学生さんは今よりも元気があって、よく仲間と飲んで騒いでいました。だから夜はアルコールも売れるだろうと手頃な値段でお酒のメニューを充実させたんです。深夜になると、今度は終電を逃した学生やサラリーマンがコーヒー1杯で始発まで寝ていたし、卒業式近くになると論文書きで朝までねばる学生も多かったですね。

普通のお店の倍の量を出す理由

――お金のない学生にはありがたい存在ですが、経営的には大変ではないですか。

 まあ、そうなんですけど(笑)。でも、お腹をすかせた学生や若いお客さんが来るから、うちはどれも盛りを多くしています。量が多いのは沖縄式のおもてなし文化なんです。だって、わざわざこの店まで足を運んでくれたんだから、おいしいものでお腹いっぱいにして帰ってほしいでしょ。だからジュースもお酒もグラスを大きくして、普通のお店の倍の量を出しています。混んでいる時もあるけど、ゆっくりしていってもらいたいから。

――なぜ半世紀もお店が繁盛しているのかが分かってきました。食事の量だけでなく、お店の内装も豪華で長居したくなりますね。

 そう、せっかく来てくれたなら、“伯爵”になったつもりでくつろいでほしい。それで店の名前は「伯爵邸」にしたんです。内装はとにかく豪華に、たくさん絵画を飾って。そして海外旅行に行った時に買い付けたものや国内のアンティーク屋で見つけたものを置きました。油絵は好きですね。小さい頃は絵描きになりたかったくらいだから。

「モナ・リザ」をはじめ多くの絵画が飾られている不思議な空間

 後編は、占領下の沖縄から15歳でひとり上京した「伯爵邸」オーナーの知られざる奮闘と経営哲学をお送りします。

写真=末永裕樹/文藝春秋