大宮の男女に愛される不思議な喫茶店
改めて店内を見渡すと、50席ほどの客席はほぼ満席である。若者がやや多いが、常連っぽい年配客や家族連れなど幅広い世代が店を埋めている。
ランチタイムを過ぎてもお客さんが途切れないため、早々に席を立ったが、これほど埼玉の男女に愛される不思議な喫茶店「伯爵邸」とは何であろうか。どうしてこんなにメニューが多くて、年中無休・24時間営業で、大宮を名乗るパスタにイカが入っていて、ハブ酒まで仕込んでいるのか? 後日、その謎を解き明かすべく、「伯爵邸」のオーナーに取材を申し込んだ。
「伯爵邸」のオーナーの名は、宮城正和さん。約束の時間を少し過ぎて、恰幅のいい年配の男性が現れた。常連客と思わしき家族連れと挨拶を交わしながら、我々の待つ奥の席まで来てくれた。
――きょうはよろしくお願いします。宮城さんは大宮のご出身ですか?
宮城さん いいえ。出身は今、放送しているNHKの朝ドラ「ちむどんどん」の 舞台になっている山原(やんばる)です。沖縄の北部ですね。昭和24年生まれで、22歳の時から埼玉で暮らしています。「伯爵邸」を大宮に開店したのは24歳の時ですから……もう半世紀も経ちますね。
――沖縄だったんですね。店の入り口にハブ酒が置いてあるわけが分かりました。
ええ。あれは、平成24年にすごい腕を持つ沖縄のハブ捕り名人に頼んで、2メートルの大きなハブをつかまえてもらったんです。だから、まだ10年しか経ってない。ハブ酒がおいしくなるには15年かかります。
――なるほど。あと、数年経ったら、メニューに載るかもしれない?
そうですね。その頃にはたぶん、おいしいハブ酒ができているでしょう。
――お酒の種類も驚くほど多いのですが、今、すべてのメニューはどのくらいあるのでしょうか?
300種類です。
――300! 喫茶店とは思えない、すごい数ですね。開店からだんだん増えていったのでしょうか?
もともとオープン当初から200種類はありました。普通の喫茶店ではサンドイッチくらいしか出さないけれど、それでは他の店と差別化できない。そこで、沖縄にある洋食喫茶とアメリカのバーを合わせたような何でも食べられる店にしたかったんです。洋食だけじゃなくて、誰が来ても何でも食べられるように、当初から和食も中華も故郷の沖縄料理も加えました。