24時間営業、年中無休、メニューは300種類。「大宮ナポリタン」発祥の地として知られ、50年以上もの間、埼玉の人たちに愛される喫茶店がある。その名は「伯爵邸」。NHKドキュメント72時間「なぜか大宮 喫茶店は待っている」で取り上げられたこともある。
にぎわう繁華街の裏に位置する店が妙に繁盛している理由をさぐるべく、オーナーの宮城正和さんに話をうかがうと、朝ドラ「ちむどんどん」の舞台である山原(やんばる)の出身だという。その沖縄文化を取り入れた営業スタイルと、時代を先取りしたパイオニア精神が見えてきた。(全2回の1回目/後編に続く)
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ファミレスでもないのに24時間営業
埼玉県最大のターミナル駅がある大宮の喫茶店「伯爵邸」。「24時間営業」の札が窓辺に置かれている。ファミレスでもないのに24時間営業の喫茶店は珍しい。
ドアを開けると、昭和にタイムスリップしたかのような懐かしくレトロな空間が。天井はステンドグラス風、広々としたソファ席に、壁にはモナリザなどの西洋絵画がかけられている。しかし、重厚感のある都内の昭和レトロの喫茶店とはどこか雰囲気が違う。
アンティークの彫像に混じって大きなダルマが置かれていたり、高価そうな陶器のサルの首にメニューのビラを無造作にかけていたり。うまくいえないが、田舎の実家のようなごちゃごちゃ感があって妙にほっとする。
ところが、入り口の棚に置かれたガラス瓶を目にして思わず飛び上がった。胴体が直径5センチくらいある巨大なヘビがトグロを巻いて口をガッ!と開いていたからだ。ウェイターさんが笑って「それ、ハブです」と教えてくれたが、居酒屋の店先ならともかく喫茶店にハブ酒とはなんとも珍しい組み合わせだ。
「大宮ナポリタン」を注文して驚愕
案内された奥の席でメニューを開く。パスタにサンドイッチ、パフェといった喫茶店らしいメニューに続いて、和食に中華、沖縄料理に……タイ料理? さらにページをめくるとウイグル、ネパール、インドと、世界の料理が次々と登場する。喫茶店にしてはずいぶん料理の種類が多くないか?
飲み物もしかり。ビールやワイン、ウイスキーや日本酒のほか、泡盛にジン、ご当地ビールやオリジナルカクテルと、アルコールのメニューも大充実である(なぜかその時ハブ酒はなかった)。
何を注文するか悩んだが、「伯爵邸」初心者としては、店の看板メニューの「大宮ナポリタン」を頼んでみることにした。写真を見ると、カイワレ大根がパスタの上に乗っており、ニラも入っているらしい。ナポリタンには珍しい組み合わせだが、きっとこの辺りで採れる野菜なのだろう。そのほか、玉ねぎ、マッシュルーム、豚肉、そして……えっ、イカ!? なんで魚介? 大宮、海ないのに?
待つこと10分。運ばれてきた「大宮ナポリタン」を見て驚愕。通常の店の2倍はあろうかという盛りの良さに、もはやイカの謎が吹き飛ぶ。店の人に確認すると、これが普通の量なのだという。麺はモチモチ、具材もたっぷり、ニラの香りにイカの食感を楽しみつつ、カイワレの苦味もいいアクセントになる。食べきれるか心配であったが、穏やかな味付けで最後まで飽きることなくいただけた。