「警察に恥をかかせたら、取り締まりがさらに厳しくなる」
そんななか6代目山口組では、国葬の前日に「明日の国葬の間、絶対に問題を起こさぬように」「事件等を起こした者は厳罰に処す」「外出は控えるように」といった趣旨の通達を出した。
通達について6代目山口組系幹部は、「国家的な行事が行われている間は、警察の警備は最高レベルになる。この際に事件を起こして警察に恥をかかせたら、取り締まりがさらに厳しくなる。わざわざ、警察の恥になるような事件を起こして怒らせる必要性はまったくない」と理由を説明する。
この幹部は「皇室行事も同じだ」とも強調する。「我々は伝統的に皇室に対しては敬意を抱くといった考えがある。天皇皇后両陛下の行幸啓も同じ。外出されて行事に参加される際にも静かにしているのが通常だ。全国どこでも天皇皇后がお出かけになる際には警察の警備は同様に最高レベルになる。この際に事件を起こすバカはいない」
彼らにとって国家的な行事とは、主要国首脳会議(サミット)や昨年の東京五輪・パラリンピックも同じだという。前出の幹部は、「伊勢志摩サミットの際も昨年の東京五輪でも『静かにしていろ。動くな』という指示があった」と明かす。
伊勢志摩サミットが開催された期間は、対立抗争による事件がピタリと止まった
首都圏に活動拠点を構えている別の指定暴力団幹部は、「国家的行事の際には、(暴力団犯罪捜査を担当している)警察の組対(組織犯罪対策部)の幹部から『行事の期間中には、騒ぎを起こさず静かにしていてくれ』との要請があることもある」と打ち明ける。さらに、「警察からの要請がなくとも、オリンピックなどでは自粛するというものだ。今回の国葬も同じだ」とも述べた。
国葬にあたって活動自粛の通達が出された6代目山口組は、2015年8月に分裂して離脱したグループが結成した神戸山口組との間で対立抗争状態となって久しい。前出の幹部が指摘した通り、2016年5月に米大統領のオバマらが参加した伊勢志摩サミットが開催された期間は、激化する対立抗争のさなかであったが、ピタリと事件の発生が止まったのも事実だった。
分裂以降、双方ともしばらくはにらみ合いが続くような時期もあった。しかし、分裂翌年の2016年2月23日、福井県敦賀市の神戸山口組正木組(当時)の本部事務所に向けて発砲事件が発生した。正木組は、神戸山口組最高幹部の正木年男が率いていた組織である。正木は分裂前の6代目山口組に所属していた際には本部長という事実上ナンバー3の要職にあった。発砲事件で銃刀法違反の現行犯で逮捕されたのは6代目山口組系の組員だった。