似つかわしくない言葉で自嘲気味に「当面は法令順守だった」
この事件をきっかけにして、うっぷんを晴らすかのように双方の間で抗争事件が続発するようになる。当時、組織犯罪対策を担当していた警察庁幹部は、「理由は分からない。ただこの事件の発生を境にして、抗争が止まらなくなった」と指摘していた。
2月以降、双方の拠点が多くある関西地方、中部地方だけでなく、東京都や神奈川県、埼玉県などの首都圏、北海道や長野県など全国で連日のように発砲や乱闘騒ぎ、事務所への車両の突入などの事件が発生。多い日には1日に3件の抗争事件が発生したこともあった。3月に入っても事件は続いた。
しかし、5月2日に北海道旭川市の6代目山口組系の事務所にコンクリート片が投げ込まれた事件を最後に発生は止まった。三重県で伊勢志摩サミットが5月26、27日に開催されるためとされた。前出の6代目山口組系の幹部は伊勢志摩サミット開催時を振り返り、「当面は法令順守だった」と似つかわしくない言葉で自嘲気味に語った。
岡山で“音”が鳴ったあとから抗争は再燃し、分裂状態は長期化
ただ、伊勢志摩サミット終了直後、銃声が鳴り響くこととなった。2016年5月31日、岡山市で神戸山口組池田組(当時)のナンバー2である若頭の高木昇が射殺されたのだ。事件直後、暴力団業界では「岡山で音が鳴ったようだ」との情報が駆け巡った。
暴力団業界では「音」とは「銃声」を意味している。「音が鳴った」とは、拳銃が使われた対立抗争事件が発生したことを意味した。地元の岡山県警は即座に捜査に着手、6代目山口組の中核組織である弘道会系の組員が逮捕された。その後、抗争は再燃することとなり、分裂状態は今年8月で8年目に入り長期化している。
元首相の国葬をめぐっては世論が分断された。当日は都心だけでなく全国各地で国葬反対デモなどがあり喧騒は終日続いた。だが、暴力団業界では活動自粛で意見が統一されていたためか、国葬当日に暴力団組員が関与する大規模な事件の発生はなかった。(文中敬称略、一部の肩書は当時)