意思決定の文化の確立こそが大事
岸田首相は、新たな感染症に備えた司令塔として総理直轄の内閣感染症危機管理統括庁と日本版CDC(米疾病対策センター)を立ち上げると表明した。しかし、尾身氏はこういった新たな役所の立ち上げでは解決できない、意思決定の文化(ルール化)の確立こそが大事であるという。
「私の経験から考えるところでは、危機における司令塔に求められるものは、(1)情報分析、(2)リサーチ・クエスチョン(課題研究)と提案、(3)人的組織的ネットワーク、(4)意思決定と国民への説明、(5)政策実現のフォローアップがあります。これらはおそらく日本版CDCや感染症危機管理統括庁の課題になるでしょう。
しかし何より大事なのは(4)の意思決定と説明。そして今回の経験でわかったのは、(5)のフォローアップも重要だということです。(菅政権時代の)ワクチンと(岸田政権時代の)検査キットのちがいはここにありました。(4)と(5)はともに政府全体でやっていただくしかありません」
「意思決定のルール」には、総理自身による国民への説明も含まれることを忘れてはならないと尾身氏はいう。
「新型コロナ対策の最大の教訓は、最終判断は総理がするものですが、専門家の意見を聞いた上で判断すること。そして判断をしたら、なぜそのように判断したのかを必ず総理が自分で国民に説明することの大切さです。これが意思決定のルール化の肝だと私は痛感しています。政治家がリスクを負って判断し、国民とのコミュニケーションをしないかぎり、政治主導という意思決定の文化は完成しません」
尾身茂氏のロング・インタビュー「コロナと戦った三人の総理」は、「文藝春秋」11月号(10月7日発売)に12頁にわたって掲載されている。未曽有の危機に際して、日本の政治の中枢とかかわってきた専門家による日本の政治への真摯な注文だ。