10月1日に死去したアントニオ猪木。彼が、「プロレスラー」を超えた存在になったのは、1976年6月に行われたWBA・WBC統一世界ヘビー級チャンピオンのモハメド・アリとの「異種格闘技戦」だった。「週刊文春」編集部は今回、この戦いの舞台裏を明かすアリの肉声テープを入手した。

アントニオ猪木 ©文藝春秋

 ゴング直後に猪木がアリにスライディングをして世紀の一戦は始まる。猪木はリングに背をつけて仰向けの体勢となり、アリの膝の裏をめがけてキックを繰り出した。試合は15ラウンド引き分け。この戦いは「世紀の大凡戦」と批判を浴びた。

 当時から、猪木・アリ戦を巡ってはガチンコだったのか、それともシナリオのあるショーだったのか、論議を呼んできた。

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「週刊文春」は、世紀の一戦の前に、アリ自身が本音を打ち明けた音声テープをアメリカで入手した(音声は「週刊文春 電子版」で公開)。

〈私が猪木や彼のマネージャー、全ての関係者に伝えたいのは――〉

 テープが吹き込まれた時期は、試合の条件交渉中の1975年頃。アリ本人が試合へのスタンスを語ったものだ。

モハメド・アリ ©時事通信社

 アリはこう話している。

〈もし私が猪木を手加減して殴った上で、彼が怪我をしたフリをしたり、私が腕を捻られて怪我をしたフリとしたとしたら、これはリアルではないとバレてしまうだろう。私はそれには関わることができない〉