暴力のきっかけは妻からの「告白」
妻の入院中、病院はDVの疑いから面会を制限していたが、武藤被告は病院に対して妻との面会を要求したうえ、病室に複数回にわたり押し入ろうとしていたという。「殺すぞ」「心臓にナイフを突き刺してやる」「心臓をえぐり出してやる」などといったLINEのボイスメッセージを送信したのは、その後のことだった。
被告人質問では全ての起訴事実を認める武藤被告に対し、弁護人が「どのような理由で妻に暴力をふるったのか」と尋ねると、演説のように長時間かけ、その理由を語り始めた。“聞かれた質問に端的に答える”ことが求められる刑事裁判において、武藤被告は終始、この調子だった。
「理由そのものについては夫婦間の、人には言えない、2人だけの話がありましたが、どんな理由があったにせよ暴力は成り立たないので申し訳なく思っています。彼女も夫婦だから話してくれたこと……結婚前、結婚後のいろんな会話……結婚してくれたからこそ話してくれた……言いにくいことだと思ったが、『夫婦だから話す』と話してくれました。それは彼女もキツかったと思いますが、(妻の話を)聞いて『今までの話と違う』と思い、身体的にも心も傷つけた。さらに法廷で私がその理由を話すとさらに彼女を傷つけるし、プライバシーに触れる内容でもあるため、どうしても(理由については)話しにくい」(被告人質問での証言)
武藤被告が“夫婦間の人には言えない話”と強調する、妻からの「告白」だったが、妻自身は調書に語っている。それによると昨年12月、まさに暴力が始まることになる直前に「過去の男性経験」を武藤被告に話したのだという。妻自身が語り出したのか、武藤被告が聞き出そうと質問を重ねたのかは明らかにはなっていない。
50代の女性が、それまでの人生において、出会いや別れがあったとしても、驚くことではない。ところが武藤被告は、これが暴力を振るうきっかけになったのだと、時に目元をぬぐい、言葉に詰まりながら、繰り返した。